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ソン・ランの響き

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ベトナム

ソン・ランの響き

 

Song Lang

監督:レオン・レ
出演:リエン・ビン・ファット、アイザック、スアン・ヒエップほか
日本公開:2020年

2020.2.5

今この瞬間の響きに耳をすます―ベトナム伝統楽器がつなぐ 2人の男の運命

1980年代のサイゴン(現ホーチミン)。借金の取り立て屋ユンは、ベトナムの伝統歌舞劇・カイルオンの花形役者リン・フンと偶然の出会いを果たす。

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はじめは互いに心を閉ざしていた2人だったが、ユンに助けられたリン・フンがそのまま彼の家に泊まることになり、だんだんと心を通わせていく。

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ユンは、カイルオンに欠かせない民族楽器ソン・ランの奏者をかつて志していて、今でもソン・ランを大事に持っていた。ソン・ランの響きは、2人の心を急速に通わせ合う。

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自分を「サーカスの象」と言い表すリン・フンと、強く生きながらも絶え間ない孤独を抱えてすごしてきたユンは、共鳴し惹かれ合うが・・・

ベトナムの民族楽器 ソン・ランは、直径約 7 センチの中空の木の胴と、弾性のある曲がった金属部品、その先に取り付けられた木の玉から成る打楽器です。三味線そっくりのソン・ランの響きはカイルオンの中核を担う存在ですが、本作は要所要所で80年代の風景にのせてソン・ランが奏でられます。その背景には、監督や製作陣のカイルオンに対する愛情があります。

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世界のどこでも同じようなことが起きていますが、伝統音楽や歌劇は若い世代に根付きにくく消え去りつつあり、カイルオンも例外ではないそうです。本作では「二人(ソン)」「男(ラン)」という楽器の名前自体の由来をいかし、現代的なボーイ・ミーツ・ボーイの物語を、歯止めが利かない運命のダイナミズムの中で描いています。

文化の発展や保全にとってアウトサイダーの視点はとても重要ですが、ソン・ランの音は三味線に本当にそっくりで、日本人の観客の持つ印象こそ、製作スタッフにとって深く“響く”ものになるかもしれません(東京国際映画祭で主演のリエン・ビン・ファットは新人俳優賞を獲得しました)。

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2人の男性の悲劇的ながらも美しい関係性を描いた『ソン・ランの響き』は、2/22(土)より新宿K’s Cinemaほか全国順次ロードショー。詳細は公式ホームページをご覧ください。

ベトナムを撮る

ホイアンの旧市街と南部の活気ある海岸沿いの街をめぐる

第三夫人と髪飾り

7b758173d43a9c4c(C)copyright Mayfair Pictures.

ベトナム

第三夫人と髪飾り

 

The Third Wife

監督:アッシュ・メイフェア
出演:グエン・フオン・チャー・ミー、トラン・ヌー・イエン・ケー、マイ・トゥー・フオンほか
日本公開:2019年

2019.9.25

「男児を生んでこそ夫人になれる」―19世紀ベトナムの価値観と、現代女性の自由

舞台は19世紀の北ベトナム。14歳の少女メイは、絹の里を治める大地主の3番目の妻として嫁いでくる。穏やかでエレガントな第一夫人には息子がひとり、美しく魅惑的な第二夫人には娘が三人いたが、一族にはさらなる男児の誕生が待ち望まれていた。

やがてメイは妊娠する。メイは身の回りに渦巻く愛憎や社会の矛盾に戸惑い悩みながらも、出産に向けての心を整えていく・・・

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19世紀・ベトナムの女性たちの物語は、現代社会に暮らす私たちに「女性の自由とは何か?」という大きな疑問を投げかけます。当時は男児を生むことが女性にとって最も重要な役割でした。劇中、メイのように現代の基準からすれば結婚にはまだ早い少女が結婚を拒否され、父親に「唯一の役目も果たせないのか」と見捨てられる、悲しい場面があります。

現代社会ではそうした悲劇は起きていないかというと、「いまだに起きている」と答えざるをえません。日本でもベトナムでもその他の国々でも、形は変われどいまだに「唯一の役目も果たせないのか」に近い言葉が発されることが往々にしてまかり通っています。

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監督のアッシュ・メイフェアは映画製作を欧米で学び、本作で母国の慣習を「外の目線」で見つめています。「旅と映画」では、『娘よ』(パキスタン)、『シアター・プノンペン』(カンボジア)、『少女は自転車に乗って』(サウジアラビア)といった同傾向の作品を今まで紹介してきましたが、本作もまたそうした新潮流の一作として、他の国の作品と見比べて鑑賞していただくと深みがさらに増すはずです。

ロケ地についても言及しておかなければいけません。本作の重要なロケ地のひとつは、ハノイから南に約90kmのところにあるチャンアンです。物語は、カルスト地形の奇岩に囲まれつつ流れる川を、舟に乗ったメイが進んでいく場面から始まります。また、川に隣接した洞窟でも撮影が行われており、「生と死」の不思議に直面するメイの心理を表現する上で重要な役割を果たしています。

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チャンアンは2014年に「景観複合体」として世界遺産に登録され、隣接しているホアルーはベトナム初の独立王朝の都が置かれた場所です。おそらくこの地の景観は太古の昔からさほど変わっておらず、様々な人の生き死にを目にしてきたのでしょう。「世代」「継承」というテーマを醸し出す本作は、ロケ地によってさらにそのメッセージ性が増しているように感じました。

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こだわり抜いたセットや衣装も必見の『第三夫人と髪飾り』は10月11日(金)よりBunkamuraル・シネマほか、全国順次ロードショー。詳細は公式ホームページをご覧ください。

ハノイからプノンペンへ陸路で繋ぐ アジアハイウェイ1号線を行く

2015年に開通した橋を利用しベトナムからカンボジアへ 7つの世界遺産も訪問

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チャンアンの景観複合体

「陸のハロン湾」と賞されるカルスト地形の景勝地・ニンビン郊外のチャンアン川にて、手漕ぎ船での川下り「チャンアンクルーズ」が楽しめます。

漂うがごとく

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ベトナム

漂うがごとく

 

Choi voi

監督:ブイ・タク・チュエン
出演:ドー・ハイ・イエン、リン・ダン・ファムほか
日本公開:2016年

2018.8.29

ベトナムの湿潤な空気の中で、ゆっくりと熟成されていくひとときの迷い

ハノイで旅行ガイド兼通訳として働くズエンと、彼女より3才年下でタクシードライバーのハイは、出会って3ヶ月で結婚した。

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後日、ズエンは結婚式に来られなかった女友達・カムを訪ね、体調が悪いカムの代わりに手紙をトーという男に届けに行くことになる。ズエンは手紙を届けた時トーに襲われてしまうが、しだいにマジメでおとなしいハイとは真逆で野生的なトーに魅了されていく・・・

本作は、ベトナム本国では2009年に公開された作品です。公開されてからの約10年で、ベトナム社会はさらに大きく経済発展をとげました。題名に「ごとく」と入っているように、ハノイの町の様々な事物が比喩的に映されていきますが、特にズエンの夫・ハイが運転するタクシーがハノイの渋滞や洪水の中でも走り続ける様子からは、当時のベトナムの趨勢を感じることができます。

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経済発展による格差の拡大や倫理観の変容を描く一方で、このコラムで過去に紹介した『夏至』のように、ベトナムの湿潤な空気とその「温度」が映画全体に浸透しています。観光地として有名なハロン湾でのシーンは、登場人物たち自身が物理的に漂っているだけでなく、心の揺らめきが表されています。

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本作を見て私は「かたつむり そろそろ登れ 富士の山」という小林一茶が詠んだ俳句を思い出しました。主人公のズエンは自分がした「結婚」という選択についてゆっくりと考えを巡らせます。カメラ・写真・映像が近年手軽なものとなり風景までもが消費されてしまいがちですが、一茶の俳句のように、ズエンの漂流する心はいつのまにか景観の中に誘い込まれ熟成されていきます。

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自分の声にじっくりと耳を傾けてみることの価値を教えてくれる『漂うがごとく』は、9月から12月にかけて東京・神奈川・愛知・大阪で開催されるベトナム映画祭で上映後、各地劇場に配給予定。詳細は公式ホームページをご覧ください。

ビクトリア・エクスプレスで行く 少数民族の里サパとAUCO号で過ごす 世界遺産ハロン湾の旅

豪華客船と寝台列車で巡る優雅なベトナムの旅

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ハロン湾

ベトナム北部、トンキン湾北西部にある湾。大小3000もの奇岩や島々が存在する。中国がベトナムに侵攻してきた時、竜の親子が現れて敵を破り、口から吐き出した宝石が湾内の島々になったと伝えられている。

草原に黄色い花を見つける

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ベトナム

草原に黄色い花を見つける

 

Toi Thay Hoa Vang Tren Co Xanh

監督:ヴィクター・ヴー
出演:ティン・ヴィン、チョン・カン、タイン・ミーほか
日本公開:2017年

2017.8.2

ベトナムのベストセラー小説を元にした、淡い初恋の物語

1989年、ベトナム中部・フーイエン省に暮らす仲良し兄弟のティエウとトゥオンは、貧しいながらものどかな自然の中で動植物にふれながら楽しく暮らしている。12歳になる兄・ティエウは、幼なじみの少女・ムーンのことが気になっているが、うまくその思いを言葉にできない。そんなある日、ムーンの家が火事で焼け落ちてしまう。ムーンはしばらくの間ティエウとトゥオンの家で過ごすことになり、ティエウの恋心は募っていく。しかし、ムーンとトゥオンの仲が深まっていくにつれて、ティエウの心に嫉妬の感情がうまれてくる。

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本作は、まだあどけなさの残る表情を見せる俳優たちの姿から、あるがままに物事を感じることの大切さを観客に思い出させてくれる作品です。

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私は昨年この映画の舞台であるベトナムに訪れた時、葬式の列に遭遇しました。その時、「あの賑やかな列は何かの祭りか?」と私は友人に尋ねました。友人は、「あれは祭りではなく葬式だ」と私に教えてくれました。「祭り」という私の認識自体は間違いでしたが、祭りだと信じ込んでいた時に私の体を流れていた感覚は、間違いというわけではありません。

旅をする時に勉強しなければわからないことは多いです。私もチベット仏教圏に多く添乗業務で足を運んだ時は、日本の仏教とは大きく異なる尊格や仏像の印相を勉強しました。もちろん知識があると色々なことがわかるようになりますが、形にばかりに気を取られていると本質を見落とす危険性があることを、多くの素晴らしい美術・遺跡・建築などから学びました。

本作の劇中では、大人が子どもに知識を伝えることや、大人の都合によって子どもの感性が失われてしまうことが象徴的に表現されます。頭のなかに渦巻く思いを、うまく言葉にすることができない・・・そうしたもどかしさは、まだボキャブラリーが限られている子どもだけでなく、大人にも時々わき起こります。緑の草原に黄色の花の道標を見つけるという詩的な題名は、そうした複雑な心持ちの中に宿る美しさを意味しているのではないかと、私には思えました。

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『草原に黄色い花を見つける』は、8月19日(土)より新宿武蔵野館にてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

夏至

ベトナム

夏至

 

A LA VERTICALE DE LETE

監督:トラン・アンユン
出演:トラン・ヌー・イエン・ケーほか
日本公開:2001年

2016.3.10

雨と緑が映える、
絵筆で書いたようなベトナム映画

旅先で雨が降ると少し憂鬱になってしまうこともあるかもしれません。しかし、この映画を見ると雨の降る音にも色々あり、雨粒が落ちる場所によって音が違うことに気付かされます。ストーリーは三姉妹を主人公として、夫婦間の愛憎などヘビーな内容も含んでいるのですが、そうした展開も劇的にはならずにさらりと流れていきます。流れていくというよりも、ハロン湾の奇岩の中に大の字で浮かぶ登場人物のように、ストーリーはどこに行くでもなく、ただ浮かんでいるだけなのかもしれません。雨がたくさん降り、草花が茂って、湿度で人々は汗をかき、暑さを和らげるかのように簾が風にかすかに揺れる…というように、登場人物たちが過ごす環境が綿密に構成された映像・音響で表現され、映画に浮力をもたらしているのでしょう 。東南アジアの湿度が伝わり、冬に観ても知らないうちに体があたたまっているような不思議な鑑賞体験ができるかもしれません。

世界遺産ハロン湾2泊3日の豪華クルーズと陸のハロン湾ニンビン訪問の旅

豪華客船AUCO号でハロン湾クルーズ楽しむGW企画。2014年新たに世界遺産に登録された古都ホアルー、チャンアンも訪問。ニンビンでは古民居風ホテル「エメラルダ・リゾート」に宿泊。

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ハロン湾

ベトナム北部、トンキン湾北西部にある湾。大小3000もの奇岩や島々が存在する。中国がベトナムに侵攻してきた時、竜の親子が現れて敵を破り、口から吐き出した宝石が湾内の島々になったと伝えられている。