タグ別アーカイブ: ギリシャ

テーラー 人生の仕立て屋

74c1661df18b217d(C)2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.

ギリシャ

テーラー 人生の仕立て屋

 

Tailor

監督: ソニア・リザ・ケンターマン
出演:ディミトリ・イメロス、タミラ・クリエヴァほか
日本公開:2021年

2021.8.4

アテネの仕立て屋が真逆の人生見出す、「ニュー・ノーマル」発見の旅

中年のスーツ職人・ニコスは、アテネで36年間高級スーツの仕立て屋を父と営んできた。しかし、ギリシャを覆う不況はニコスの店にも影響し、店は銀行に差し押さえられ、ショックでニコスの父は倒れてしまう。

tailor_sub07

tailor_sub09

途方に暮れたニコスは、手作り屋台で、移動式の仕立て屋を始める。しかし、ストリートマーケットでは高級スーツや仕立ての技術はまったくお金にならない。

tailor_sub03

そんなある日、道端を歩くニコスを、「ウェディングドレスの注文がある」という女性が呼び止める。紳士服一筋だったニコスは躊躇しつつも、オーダーを受けて人生の新たな一歩を踏み出す。

tailor_sub05

私は2008年にギリシャに一度訪れたことがあります。ほぼ何も下調べずにアテネのエレフテリオス・ヴェニゼロス空港というギリシャ皇帝のような名前(20世紀初頭の政治家だそうです)の空港に降り立ち、古代ギリシャ帝国の繁栄のイメージから豪華絢爛な都市を勝手に想像しつつホテルに向かう道すがら、落書きだらけの地下鉄(本作劇中にも映っています)に乗りながら、脳内のアテネのイメージがものすごい速度で書き換えられていったことが強く記憶に残っています。

当然、ソクラテス・プラトン・アリストテレスらが生きた「黄金時代」は2000年以上前ですし、神話の世界が息づいているのはどちらかというとクレタ・サントリーニ・ミコノスなどの島なので、アテネとしても「そんな栄華や神話のイメージを持たれても困る」と思ったかもしれません。

いわゆる「ギリシャ危機」は2009年に起きましたが、私が訪れた2008年にも、ツーリストが感知できるぐらいはっきりとした兆候が既にありました。なんとなく「状況が悪い」という雰囲気が都市に蔓延していて、「失業者が増加していてこのままではマズい」ということを地元の人が話していました。

tailor_sub06

『テーラー 人生の仕立て屋』の話に戻りますが、本作は「ギリシャ危機」が過去に起こったことが大前提にあります。おそらく、「経済危機の嵐が吹きに吹き荒れて、分厚い雨雲からようやく陽光が差し始めた頃」という設定なのだと思います。

tailor_sub02

主人公のニコスは、ある種の「ニュー・ノーマル」(コロナ以前に制作された映画ですが、多くの映画と同様に本作もコロナ後に意図せざる意味合いを持つことになった作品の一つだと思います)を強いられます。それは、彼が生業にしてきた「高級スーツの仕立て」という仕事の価値が、経済危機によって根こそぎ吹き飛ばされてしまったためです。

tailor_sub04

それでもなんとか生きようと奔走するニコスは、自分の業務領域外である「ウェディングドレスの仕立て」のオーダーを受けます。最初は「そんなのは自分の仕事ではない」と思いつつも、背に腹は代えられないと思い直し、ニコスは仕事を受けます。

tailor_sub08

このシーンから、昨年有田焼の職人さんを取材して「頼まれ仕事」に関して話してもらったことを、私は思い出しました。そのとき聞いたのは「自分が本当にやりたかったものをつくってみると、首をかしげられる。しかし、思いもよらぬ頼まれ仕事を受けて模索しながらつくったとき、想像以上の好評を得る。自分というのは自分が一番知らなく、他者のなかにこそ自分という存在はあるのかもしれない」ということだったのですが、これはまさにニコスの「進化」を解説するのにピッタリの言葉だと思いながら、本作を鑑賞していました(ポスターのキャッチコピーにもある「人生は測れないから面白い」というのとほぼ同義だと思います)

tailor_sub11

tailor_main

仕立て屋・ニコスの「再生の旅」を描いた『テーラー 人生の仕立て屋』は9/3(金)より新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページよりご確認ください。

ギリシャ古代遺跡探訪
ギリシャの9つの世界遺産を巡る

歴史遺産と複合遺産を合わせて、ギリシャに登録された9つの世界遺産を巡ります。古代ギリシャ、マケドニア王国などの栄華を物語る遺跡群のほか、天に近づくために切り立った奇岩上に建てられたメテオラの修道院群など、ギリシャに残る歴史遺産の数々を訪問します。

エレニの帰郷

poster2

ギリシャ

エレニの帰郷

Trilogia II: I skoni tou hronou

監督:テオ・アンゲロプロス
出演:ウィレム・デフォー、ブルーノ・ガンツ、ミシェル・ピッコリ、イレーヌ・ジャコブほか
日本公開:2008年

2019.6.19

ヨーロッパ・アメリカ・旧ソ連―離散するギリシャの「民の記憶」

1999年、ギリシャにルーツを持つアメリカの映画監督Aは、母エレニ、彼女を思い続けた男ヤコブ、そしてエレニが愛したスピロス、男女3人の映画撮影をローマで再開する。

1953年、スピロスは恋人のエレニを追い求め、タシケント(現ウズベキスタン)へやって来る。そしてギリシャ難民の町・テミルタウ(現カザフスタン)に訪れたとき、友人ヤコブと共に集会に参加していたエレニと再会する。しかしその日、折しもスターリンが亡くなる。ソ連当局に捕えられた二人は、再び引き裂かれる。エレニはスピロスとの子供を腹に宿していた。その後、エレニはシベリアの牢獄に送られるが、そこにヤコブがやってくる・・・

悠久の神々の歴史を持つギリシャ。
「文明の十字路」と呼ばれるのはトルコのイスタンブールですが、バルカン半島最南端の本土と3000を超える島々から成るギリシャはいつの時代も、波を切る船首のようであり、時に荒波に揉まれる「歴史の十字路」であると言えるかもしれません。

本作では旧ソ連諸都市・ローマ・ニューヨーク・ベルリンなど、ギリシャから離散していった人々を想起させるかのごとく、世界各地が舞台になっています。

背景となっているのは、第二次世界大戦スターリンの死、ウォーターゲート事件、ベトナム戦争、ベルリンの壁崩壊など、激動の20世紀の歴史的事件です。

湾岸戦争、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、アメリカ同時多発テロ事件、イラン・イラク戦争、東日本大震災、福島原発事故、シリア内戦など、1986年生まれの私もまた時代を揺るがす事件を背景にこれまで生きてきました。観客によって「記憶の焼き付き方」は違いますが、歴史的事件というのは過ぎ去ってしまったことであると同時に、後で振り返った時に、その記憶を共有し深め合うことで思いもよらない大きな繋がりを見出せる可能性があります。

決して明るく鑑賞できる映画ではありませんが、つらく悲しい旅路から、歴史の優大さ、人間の強さを感じさせてくれる一作です。(本作は3部作のうち2作目で、2012年に監督のテオ・アンゲロプロスは3作目を撮影中に事故で他界し、3部作は未完となっています。一作目は『エレニの旅』という作品です)

霧の中の風景

landscape in the mist

ギリシャ

霧の中の風景

 

Τοπίο στην ομίχλη

監督:テオ・アンゲロプロス
出演:タニア・パライオログウ、ミカリス・ゼーナほか
日本公開:1990年

2016.5.25

生涯をバルカン半島の未来に捧げた
名匠による壮大なロードムービー

「旅」という行為の最も基本的な要素は一体何でしょうか。長回しカットを多用し、まるで神が天界から世界を見下ろしているかのような視点で映画を撮るギリシャの名匠テオ・アンゲロプロス監督は、12歳の少女と5歳の少年の旅を人生・政治・歴史など様々な事柄に対する問題提起に変身させていきます。姉弟はドイツにいる父に会いに行くと無一文でアテネ駅から電車に飛び乗り、長い旅路が始まります。時代設定は1970年代ですが、70年代でも現在でもギリシャを含むバルカン半島の政治事情は日本人にとってあまり馴染みのあるものではないでしょう。近年、バルカン諸国では経済危機に加えて難民の受け入れ問題を抱えていますが、こうした陸続きの国々の感覚は我々日本人にはなかなか掴みにくいものです。映画を通しての感覚的理解は、そうした諸問題と私たちの距離を近づけてくれるものの一つではないでしょうか。作品制作当時の時代背景を色濃く反映した悲しいストーリーではありますが、自分のルーツや安住の地を求めてひたすらさまよう本作のストーリーは、70年代のギリシャの抱えていた状況を理解するだけではなく現代グローバル社会における問題を考える上でも大切な要素を含んでおり、今でこそ人々の心に響く作品かもしれません。

無力なゆえに呆然として目の前で起こる出来事をただ傍観することしかできない姉弟ですが、旅は無情にも次の場所へ次の場所へと二人を連れてまわり、「見る」ことこそが旅であるということを教えていきます。主人公たち自身の視線と、その旅を見守る映画の視線という二重の構造によって、「見る」ことそのものについて映画は問いを立てているようにも思えます。バルカン諸国に興味のある方や、現実と非現実の狭間を行くような不思議な気持ちに浸りたい方におすすめいたします。

古代マケドニアの遺産と南バルカンの自然界遺産

マケドニア、ギリシャ、ブルガリアの3ヶ国を巡り、各地で数々の歴史遺産を見学。かつてアジアまでの東方遠征を行い歴史に燦然とその名を残したマケドニア王・アレキサンドロス大王を輩出した現在のペラ(ギリシャ)や、その父王で強国マケドニアの礎を築いたフィリッポス2世の墳墓が発見されたヴェルギナなど、古代マケドニアで特に重要な史跡を訪ねます。

GYMK11_img_03

テッサロニキ

ガレリウス帝の凱旋門、7世紀のフレスコ画も残るアギオス・ディミトリオス教会、考古学博物館等、見所あふれるギリシャ第2の都市。