ヒマーチャル・プラデーシュ州の魅力①  高山植物の名所 サチ・パス

インド北西部ヒマラヤ山脈の西側に位置するヒマーチャル・プラデーシュ州。

(ヒム=雪、アチャル=山)「万年雪をいだく山々」という意味で、平らな土地がヒマラヤの高山へと姿を変える一帯で、州の最高峰はレオ・パルギャル山(6816m)です。

 

「ヒマーチャルは世界の花かご」と、言われるほど花があります。

古代この地はチベットや中央アジア、カシミールへの交易ルートの十字路で、ラージャ(藩主)やラナ(王)、タクル(貴族)が、ラフン族やタクライ族と対抗し、ヒマーチャルは小さな国々の寄せ集めのようなところでした。

カーングラー王国とクルー王国、そして後のチャンバ王国のみがささいな争いから脱却する力を持っていました。

植民地時代には、多くの藩主が英国軍と運命をともにしましたが、自らの王国も自立権も失うことになってしまいました。初めて訪れた西洋人は、伝説に残るプレスター・ジョンの王国を探しに来たイエズス会の宣教師たちです。

英国人がヒマーチャルを「発見」したのは、シク教徒とグルカ族の戦争の後で、19世紀後半にシムラー、ダルハウジー、ダラムサラーに小英国が造られました。20世紀初頭には狭軌鉄道が建設され、一本はシムラー方面へ、もう一本は、カーングラー渓谷を貫くように敷かれました。

1948年ヒマーチャル・プラデーシュ州が形成され、大勢の農民が封建制度から解放されました。州としての地位は1971年に確立されています。

手つかずの自然から、イギリス統治時代の趣を残す町並みまで、魅力沢山のヒマーチャル・プラデーシュ州。

今回ご紹介するのは、フラワーウォッチングにおすすめのサチ・パスです。

 

チャンバ渓谷からパンギ渓谷へ抜けるサチ・パス(4,420m)。このルートは、冬は深い雪に覆われるため6月末から10月頃までしかオープンしません。

 

3,000m以上の山の斜面では放牧キャンプで暮すグジャールの人々との出会いもあります。

3,500m付近からはブルーポピーをはじめとする高山植物の花が現れ始めます。

 

ここで通過するパンギ渓谷はピール・パンジャール山脈とザンスカール山脈に挟まれた谷で、ヒマーチャル・プラデーシュ州の中で最も“閉ざされた谷”です。積雪のため、1年の半分以上が他の地域から隔絶されます。

バイラガルから出発し、つづら折りの道をぐんぐん進んでいきます。

 

峠付近は7月でも雪が残ります。

途中、ブルーポピーをたくさん見つけることができました。

 

そして峠付近では一面のお花畑。

インド人観光客もおらず、まさに『手つかずの自然』というのにふさわしい場所です。

こんな道も通ります。

簡単には難しいですが、アドベンチャールートがお好きな方にはおすすめの場所です。

 

 

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気軽にフラワーウォッチング ロータンパス

前回までご紹介したデリーからレーへの陸路旅。実は、もっと短い時間で行く方法があります。

それが、ロータンパスという峠を越えて行く方法です。

まずは、デリーからヒマーチャルプラデーシュ州のマナリまで。車で移動すると約12時間ほどでしょうか。デリーから長距離バスも出ているので、比較的アクセスしやすい町です。

ツアーでは、途中のチャンディガルにて1泊することが多いです。

 

■マナリ Manali

マナリはクル渓谷の北部、標高約2,050mの大自然の中に位置する人気の保養地です。特にインド人の避暑客やハネムーン旅行で訪れる新婚夫婦が多く、ハイキングやパラグライダー、ラフティングや釣りなどを楽しむ人々で賑わっています。伝説によると、ヒンドゥー教の創造神話で「ノア」にあたる「マヌ」が、世界が洪水で破滅した後にマナリで船を降り、人間の生命を再創造したといわれています。「マナリ」とは「マヌがいる場所」という意味で、マヌを祀る寺院もあります。

 

木造のハディンバ寺院

この、マナリとキーロンの間にあるのがロータンパスです。この峠を越え、キーロンを通過してラダック・レーへと繋がっています。以前は未舗装で、雨季になるとぬかるみも多く、とても時間のかかったこのルートですが、2015年南西の道路工事が終了し快適な舗装道路となりました。

未舗装の時は、雨季はぬかるむことも多く、渋滞もひどかったです。

 

2015年以降、快適に!

この峠は、マナリに遊びに来たインド人ももれなくロータンパスにやってきますので、ハイシーズンはインド人観光客でも賑わいます。

 

毎年雨季(6月後半~7月後半頃)に入ると、標高約3,980mのロータンパス付近では、様々な高山植物を目にすることができます。キンポウゲ、サクラソウ、フクロソウ、ウルップソウ、アヤメ、エーデルワイス、ツリフネソウなど、時期が合えばまさに一面のお花畑です。標高3,500m以上になると、ヒマラヤの青いケシとして知られるブルー・ポピーも見られます。この辺りで見られるブルー・ポピーは「メコノプシス・アクレアタ」と呼ばれる種類のもので、岩陰などにひっそり咲き、淡く儚い水色の花びらが印象的です。晴れると、峠付近では迫力ある5,000m級のラホールやスピティ渓谷に連なる山々、コクサールピークなどを目前に仰ぐことができます。

 

峠のトップまで車で行き、車道からそれると、すぐ近くに高山植物をたくさん観察できるので、比較的気軽にフラワーウォッチングが楽しめるお勧めのスポットです。

 

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インドヒマラヤ冒険行③ デリーから陸路で行くラダック

ついに、レーに到着です。

ラチュルン・ラ(5060m)を越えてまっすぐラダックの中心レーへと向かうこともできますが、さらに寄り道をしてチャンタン高原の湖ツォ・モリリを目指します。

 

ラチュルン・ラ

湖手前にはツォ・カルという塩湖があります。ここで採れていた塩は、スピティにあるキッバル村等での物々交換の材料になっていた品です。

 

ツォ・カル

まずはチャンタン高原について、ご紹介します。

 

■チャンタン高原

チベット北西部からラダック南東に広がる広大なチャンタン高原。1962年のインド・中国紛争の後、チャンタン高原の西の一部がインドに属することになりました。平均標高が4,500mの高原には湖が点在し、古くからチャンパと呼ばれるチベット遊牧民が暮らしてきました。

チャンタン高原の人々の生活の糧は大切な家畜と、その家畜が食む草。家畜はヤク、羊、そしてパシュミナヤギです。冬はマイナス30℃以下になる厳しい環境では草が生える期間も短く、このわずかな草を食い尽くさないよう、チャンパの人々は年に8~10回キャラバンを組んで移動します。

 

早朝、遊牧民のテントを訪れると、乳しぼりをしている様や、バター、ヨーグルトなどを作っているところが見学できます。

乳しぼりの後、子ヤギたちがミルクを飲まないように胸に薬草を塗られて、日中はエサを求めてさらに山の方へと移動するヤギたち。夕方になると戻ってきます。

 

そんなチャンタン高原の西の端、標高4,500mの土地に美しい半塩湖「ツォ・モリリ」が広がります。 湖畔の小さな村「コルゾック村」の中心にはチベット仏教のコルゾック僧院が建ち、周辺の人々の信仰の拠り所となっています。

 

コルゾック僧院※グストール祭の様子

朝、ツォ・モリリを出発。ここからレーまでは約8時間。

ポロコンカ・ラを通り、塩湖ツォ・カルの辺りまで来ると国道に合流。

荒涼とした渓谷の中をぐんぐん進み世界で2番目に高いタグラン・ラ(5327m)を越えて、一気に町へと入ります。

 

タグラン・ラ

レーのバザールの様子です。

飛行機で移動すれば1時間程で到着する町ですが、荒涼とした景色を眺めながら陸路で移動するのも、飛行機では味わえない雰囲気満載の楽しい旅なのでオススメです。

 

この他、デリーからマナリへと移動。ロータンパスを越えてキーロンからレーに移動するルートもありますので、また別の記事でご紹介したいと思います。

 

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インドヒマラヤ冒険行② デリーから陸路で行くラダック

前回はデリーからタボへと移動しました。

タボの観光で外せないのが『ヒマラヤのアジャンタ』と言われるタボゴンパ。

残念ながら内部の写真撮影は禁止です。

 

■タボゴンパ

996年にリンチェンサンポによって築かれた壮大なゴンパ。「ヒマラヤのアジャンタ」と形容されるそのタボ僧院を中心としてタボの街が広がっています。西チベット・グゲ王国から当時の仏教の中心地であったカシミールに派遣されたリンチェンサンポは、グゲ王国に帰国する時に絵師や工芸師など、多くの技術者を連れて帰りました。リンチェンサンポの指揮の下、その彼らによって建てられたゴンパ。入口を入ると目の前に土の固まりが飛び込んできますが、一歩お堂の中に入ってみると、そこには当時の最先端であったカシミール様式の仏教芸術が、素晴らしい保存状態で残されています。特に惹きつけらるのは大日堂のご本尊、四方向に向かって静かな微笑をたたえる大日如来と、そのご本尊を取り巻くように造られた数多くの尊格の像は必見です。

 

ダライ・ラマ14世は1996年にこの僧院を訪れ、カーラチャクラ大灌頂を行いました。その後、ダライ・ラマ14世はご自身のダライ・ラマとしての最後の瞬間を、この僧院のこのお堂で迎えたいとおっしゃられたといわれています。

リンチェン・サンポは2 度目にカシミールへ赴いたとき 32 人の建築家、画工、仏師を連れて帰国し、翻訳のみならず西チベット、ラダック、スピティの各地に108の寺院を建造したといわれていますが。このような建築様式、壁画の画風はカシミール様式・リンチェン ・サンポ様式と言われます。現在このカシミール様式の仏教芸術が残されているのは、 ラダックのアルチ 、 グゲ(チベット)トリン 、そしてこの スピティのタボの3か所です。

 

近くには歩いて行ける高台があり、そこからタボ・ゴンパを臨むことができます。

 

タボから北西に移動し、スピティ谷の中心地・カザへ。この辺りにはスピティ最古の歴史を持つキ・ゴンパがあります。

まずはスピティ川の合流ポイント

 

キ・ゴンパ

ゴンパからも絶景。特に7~8月にかけては小麦畑の緑がきれいです。

 

更に西へと移動し、クンザン・ラ(峠)を越えてラホール谷の中心地キーロンへ。

 

余裕があればキーロンから少し南下して3980mのロータンパスへフラワーウォッチングに出かけることも可能です。

 

西チベットの交易路として栄えていたキーロンでは、バザールの散策も楽しめます。この先、設備の整った宿は少ないエリアです。キーロンで宿泊し、翌日から更に北上、ついにジャンムー・カシミール州へと入ります。

 

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インドヒマラヤ冒険行① デリーから陸路で行くラダック

インド国内の観光客はもとより、外国人にも大変人気のエリア・ラダック。

ラダックの中心地レーへ行くには、デリーから毎日国内線の運航があり、1時間程で着いてしまうので意外とアクセスは容易です。

では、デリーから陸路で行くとどうでしょうか。

 

実はこの、デリーから陸路でラダックまで行くルートは、道中絶景の連続! そしてデリーのヒンドゥー教の濃厚な世界から、だんだんとチベット仏教世界へと人々の信仰や、また文化慣習も変わっていく様も体験できる、本当に魅力的なルートなのです。

 

ルートはいくつかありますが、少し時間をかけながらレーまで行ってみましょう。

 

【世界遺産 カルカ・シムラ鉄道に乗車】

早朝、薄暗いデリーの町を抜けて駅へと向かいます。まずは、ニューデリーからカルカまで約6時間の列車の旅。チェアカーと呼ばれる座席タイプのシートで中々快適です。

デリーで荷物を運んでもらう際は料金交渉もお忘れなく!

 

 

カルカ到着後、トイ・トレインのホームへと移動します。

カルカからシムラまでは約5時間。少しずつ標高をあげる列車はゆっくりゆっくり進みます。

※カルカ・シムラ鉄道

インド北部・ハリヤナ州のカルカから、避暑地として知られるシムラ(ヒマーチャル・プラデーシュ州の州都)までを結ぶ登山鉄道。イギリス統治時代の1903年、夏の首都だったシムラの交通の便のために開設されました。区間は総延長 96 km 、両端の駅の標高差は 1,420 m(カルカは 656mシムラは 2,076 m)。途中には険しい地形を反映して103ヶ所のトンネルと864ヶ所の橋があります。軌間は 762 mm のナロー・ゲージ(狭軌)で、いわゆる「トイ・トレイン」。2008年、世界遺産として「インドの山岳鉄道群」を拡大する形で登録されました。

 

 

夕方、列車は避暑地シムラ駅に到着。明るいうちに到着すればバザールの散策も可能です。

カラフルなシムラの街並み↓

 

シムラで1泊し、翌日はカルパまでの移動です。

シムラから北東にサトレジ川へ進んでいき、キナール地方へと入ります。この辺りから緑のフェルトをつけた独特の帽子(キナウル帽)をかぶった方々が増えてきます。

 

14の地区に分かれているヒマーチャル・プラデーシュ州ですが、シムラ、キナール、ラホール・スピティの3つの地区、谷を越えてラダックのあるジャンムー・カシミール州へと北上します。

レコンピオの町を過ぎカルパに向けてグネグネと坂を上がります。

天気が良ければシバ神が冬場にこの地にやってきて、瞑想したという伝説のあるキナール・カイラスを展望できます。

 

翌日、さらに北上してタボまでの移動です。標高もグッと上がります。

サトレジ川とスピティ川の合流ポイントを過ぎたあたりから、道は細くなります。ここからスピティ谷へと入ります。

 

3つの谷を抜けていくルートには、道中、大翻訳官リンチェン・サンポ創建、又は由来のある寺院(ゴンパ)が複数あります。

そのうちの一つ、標高3,600M程のナコゴンパへと立ち寄ります。

 

この日はタボでの宿泊。

デリーから陸路で移動する場合、時間をかけ徐々に高度を上げていくのも高山病対策の一つです。

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インドの山岳鉄道の旅!南インドニルギリ鉄道

ナマステ! 西遊インディアです。
インドの鉄道というと、ダージリンのトイトレインが有名かもしれませんが
これは「インドの山岳鉄道群」として国内3か所の鉄道が登録されている複合世界遺産です。
残る2つは南インドにあるニルギリ鉄道、インド北部へと続くカルカ・シムラ鉄道です。

今日はそのうちの一つ南インドのニルギリ鉄道のご紹介です。

 

インド最古の山岳鉄道のひとつで、2005年にダージリン・ヒマラヤ鉄道とともに、世界遺産「インドの山岳鉄道群」に指定されています。
1845年に計画が持ち上がり最終的にはイギリスの手で敷設が行われ、1899年6月にマドラス鉄道会社の経営で一般向けのものとなったこの鉄道は麓のメットゥパラヤムとウダカマンダラム(ウーティ)を結んでおり、山岳部の駅は標高 2,203mにもなります。ウーティは「青い山」を意味するというニルギリ山地の一部は高原状になっていて、イギリス統治時代の19世紀半ばに避暑地として拓かれました。

ニルギリ鉄道の蒸気機関は正面が客車に連結されています。写真はクーヌ-ル駅着後、蒸気機関のみスイッチバックして車庫に入るときに撮影したものです。

 

朝、クーヌール駅で地元の方に混ざって、入線を待ちます。

 

ダージリン鉄道は、町中すれすれを走るのが魅力ですが、ニルギリ鉄道は何といっても茶畑を眺めながらの走行が魅力!!
景色がきれいなのはウーティからクーヌールの間、茶畑も広がりのどかな風景が広がります。

 

列車の最高時速は13㎞。

時折給水のために停車し、スイッチバックを繰り返しながら、高低差1,386mのニルギリの山を2時間50分かけて登ります。運行開始から100年以上変わらない、ゆったりとした列車の旅をお楽しみください。

そのまま乗車していくと列車は麓の町メットゥパラヤムに到着。下るにつれて茶畑は耕地まじりに変わっていきます。また窓を開けて走る列車、途中数々のトンネルも通りますので、乗車する際はスカーフなどあったほうがよいでしょう。

鉄道好きな方はもちろん、地元の人とも交流ができるプチ鉄道の旅です。

 

クーヌールでは、ホテルのお庭でティータイムや、紅茶工場の見学が可能です。

茶葉に癖がなく、すっきりとした味わいの為、フレイバーティーとして流通することの多いニルギリティー。あっさりとした紅茶がお好きな方にはおすすめです。是非、味わってみてください。

 

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ガンジス源流へ! ヒンドゥー教の聖地、仙境シブリンベースキャンプ訪問③

ナマステ! 西遊インディアの橋本です。

 

ガンジス川の源流域と、その先にある仙境・シブリンベースキャンプを目指すトレッキングのご紹介、3回目。前回の記事②では、ガンゴートリーからシブリンベースキャンプを目指してトレッキングをスタートし、チルバサ、ボジバサを経るまでの行程を紹介しました。

 

いよいよ今回は、シブリン・ベースキャンプとガンジス源流点のゴウムクに到着です。

 

シブリンが間近に見えてきました!

2018年までは、チルバサを出発した後まずゴウムクへと向かい、氷河を横断してシブリンベースキャンプに行くルートが一般的でした。しかし2019年以降、大規模な土砂の崩落があり、右岸側からゴウムクに行くルートは閉鎖されたため、今はボジバサからすぐにバキラティ川を渡って左岸側から歩き、ベースキャンプを目指すルートが取られています。
超アナログ(人力)のロープウェイにて対岸へ移動します。

 

ロープウェイに乗って移動。4人乗りなのでぎゅうぎゅうです

 

■ガンジス川の「始まり」ゴウムク
ゴウムクとは・・・ガンジス川の最源流点と呼ばれる場所です。背後にそびえるバギラティの山肌に口以外の牛の顔を想定し、水を吐き出す氷河を牛の口にたとえて、そのように呼ばれています(ゴウ、Gau(牛)+ムクMukh(口)、「牛の口」という意味です)。少し遠くから眺めたほうが牛の顔をより実感できます。
このガンゴートリー氷河舌端部ですが、以前は、現在の位置より500mも手前にあったのだそうですが、地球温暖化やその他環境の変化により著しいスピードで氷河が後退しているとのことです。

 

バギラティ―山群とゴウムク

記事①にて、バラナシの街を流れるガンジス川を紹介しました。全長約2525kmの大河の最源流部となるガンゴートリー氷河の末端部から流れ出る一滴…、まさしくガンジス川の「始まり」を目の前にすると、とても感慨深いものがありました!
このゴウムクもヒンドゥー教徒のひとつの聖地です。ヒンドゥー教の巡礼者も多数訪れていました。

 

すれ違ったヒンドゥー教徒の巡礼者たち

 

■シブリンB.C(タポバン) 到着!!
人力のロープウェイで対岸に移動後、ゆるやかに標高を上げつつシブリンの方角へ歩みを進めます。ゴウムクを眼下に見下ろす急登が出現したら、そこが最後のチャレンジです! ここは一番危険とされる落石エリアでもあり、5月ですと雪解けの水が所々流れ、勢いよく流れ落ちる小川を踏ん張って横断する箇所もあり、注意が必要です。これまで割と平坦な道を来ていたこともあり、最後の急登はなかなか苦しかったです・・・が、ここを登り切ればいよいよシブリンベースキャンプに到着します!

 

雪解けの水が勢いよく川へと注いでいました(5月)
最後の急登です!!

そして… BC直下の最後の急登を登り切ると、
それまで聞こえてきたバギラディ川の濁流の音がいきなり消え、突然の静寂と、目の前には平原が!! 
中央にシブリン、そしてメルー、バキラティといったインド屈指の名峰がひしめくシブリン・ベースキャンプ(別名・タポバン)に到着です!

 

急な登りを終えるとシブリンが出迎えてくれました
キャンプ地に到着! まさにシブリンのおひざ元!

シブリンは、標高6,543m(覚えやすいですね)。その鋭角に聳える山の美しい姿は、インドのマッターホルンと呼ばれています。シブリン峰の真下に広がる草原地帯のタポバンは、アマルガンガーという名の小川が流れ、まるで別天地(時期によってはサクラソウのお花が咲くそうです)。まさに「仙境」と呼ぶにふさわしい場所です。自分の足で歩いたトレッカーと、サドゥーのみしか辿り着くことのできない、タポバン。ここでの滞在時間は、お天気が良かったこともあり、大変素晴らしい、特別な時間でした。

 

■シブリン B.C
ぜひともB.Cで2泊して、ゆっくり1日過ごせるようにしていただきたいです。2泊が叶う場合のB.Cでの過ごし方としては、ガンゴトリ氷河の奥、カラパタールというポイントまでの半日トレッキングや、メルーBC方面へ約2時間のトレッキングなども行うことができます。また特に長時間の移動はせず、B.Cでのんびり、絶景を味わうのも良いですね。

 

なお近くには、12年間言葉を発しない修行を行っているサドゥーのお宅もあり、おうちのなかを見学させてもらえます。気さくな方でいつでも快く迎えてくれますのでぜひ訪れてください。

 

マウンテンゴートなど、野生動物との出会いも楽しみのひとつです。

 

天気が良いとシブリンを目の前に食事!
マウンテンゴート
シブリン、メル―峰のうえで輝く天の川と空いっぱいの星

 

■下山、ガンゴートリーへ戻ります
さみしいですが下山の時です…。シブリンBCを後ろ髪を引かれる思いで後にしたあとは、気を付けながらボジバサ→チルバサ→ガンゴートリーと、戻ります。ガンゴートリーまで戻ると、夢から覚めたようでした。

 

シブリンBCは、エネルギーや空気感が他と全く違う…そんな気がしたのは私だけではないはずです。本当に(しつこいですが)、特別な場所であると思います。

 

シブリン

仙境シブリンベースキャンプへのトレッキングは、道のコンディションやルートが毎年変わる可能性があります。事前の情報収集は必須です。
行程全体を通しては、ほとんどはゆるやかな登りやアップダウンで、巡礼路として毎年歩かれている道ということもあり、トレッキングにおける特別な技術や心得は不要です。ただ、ガンゴートリーにて高所順応をし身体を慣らしておく必要があることと、急な登りや、場合によっては両手も使って登る必要がある箇所もありますので、ある程度高所トレッキング経験のある方、十分な基礎体力のあることがチャレンジの条件となります。

 

もちろん現地では、経験豊富な頼りになるガイドと、ポーターもおりますので、サポート体制は整っています。

 

 

まとまった日数が確保できるのであれば、ぜひとも! 挑戦していただきたいトレッキングです。

本当に、おすすめです!

 

Text by Hashimoto
Photo by SAIYU TRAVEL
(写真は、2017年、2019年に撮影されたものです)。

 

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ガンジス源流へ! ヒンドゥー教の聖地、仙境シブリンベースキャンプ訪問②

ナマステ!西遊インディアの橋本です。

 

ガンジス川の源流域と、その先にある仙境・シブリンベースキャンプを目指すトレッキングのご紹介、2回目です。前回の記事①では、デリーを出発し、トレッキングのスタート地点となるガンゴートリーまでの行程を紹介しました。

 

ガンゴートリーからいよいよトレッキング開始! なのですが、その前にガンジス川にまつわるヒンドゥー教の神話についてご紹介します。

 


■ガンガー降下

 

ガンゴートリーにある「ガンガー降下」の場面を表すモニュメント。中央がシヴァ神、左で祈りを捧げているのが、聖者バギラティ、右にはガンガー女神。

 

聖人アガスティアが海底に暮らす悪魔を退治するため地球のあらゆる水を飲み込んでしまったのが物語の始まりです。悪魔はいなくなりましたが、同時にすべての水が大地から消えてしまい、当然、地球上の生き物が生死の境をさまようこととなってしまいました。

 

そんな時に、時の王様・サガラ王の6万人の王子たちがカピラ仙に燃やされ殺されてしまうという事件が起きます。成仏できない先祖を救うために立ち上がったのが苦行者バギラティー。彼は神に祈り、水を地球に与えてくれるようにと苦行に励みました。それを見た神々は、当時、天の川だったガンガー(ガンジス川)を地球に下ろすことを計画します。しかしそこには問題がありました。ガンガーの豊富な水量が一気に地球に衝突することになったら、おそらく地球はその衝撃に耐え切れない…。その衝撃に対抗できる存在はシヴァしかいないだろう。

 

バギラティーはさらにヒマラヤにおもむき長年にわたって厳しい苦行を重ねました。やがてその苦行はシヴァ神の知るところとなり、シヴァはその熱意に打たれバギラティーからの願いを聞いてあげることにしたのです。

いよいよガンガー降下の日。圧倒的な水量で地球に落ちてきた天の川ガンガーを、シヴァは自分の長い髪の毛でいったん受け止め、それからゆっくりと地球に下ろすことに成功したのでした。

 


 

ではいよいよトレッキングスタートです!

 

■ガンゴートリーからトレッキングスタート!チルバサ、ボジバサを経てシブリン・ベースキャンプへ!

 

トレッキングスタート!

聖地ガンゴートリーで高所に身体を慣らし、ガンゴートリーからトレッキングスタートです。
まずはガンゴートリーナショナルパークにて簡単な手続きを済ませ、その後バギラティ川に沿って進みます。

 

ガンゴートリーナショナルパーク事務所

巡礼路のため道は出来上がっており勾配もきつくはないのですが、森のなかを歩くわけではないので、強烈な日射しを直接浴びながらの歩行です。日よけ対策は必須です。午後は、特に気温も上がりますのでご注意ください。

 

バギラティ川を渡ります
チルバサからボジバサ。落石注意の箇所
チルバサからボジバサの道中。正面にはバギラティ山群!

道中にはバギラティ山群、マトリ(6721m)やメルー(北峰6450m)、マンダⅠ(6510m)などの高峰が見えるポイントが多々あります。ナショナルパーク内の豊かな自然、時折姿を表す高峰群を満喫しながら足を進めます。

 

そして道中、サドゥーとの出会いも! サドゥーとは、ヒンドゥー教における修行僧のことで、ここではタポバンやゴウムクへ巡礼に出かけるサドゥー達と出会うことができます。鍛え抜かれたサドゥーのしなやかな身体に心底驚いたのを今でも覚えています。すれ違うサドゥー達は、みな大変気さくで、記念撮影やインタビューにも優しく応じてくれました。

 

こちらタポバン(シブリンベースキャンプ)にて瞑想修行を終えてガンゴートリーに戻る途中のヨガ修行者の2人。単なる戻りかと思いきや、なんと今6往復目とのこと。

 

トレッキング中に出会ったサドゥー。信じられないくらい身体が柔らかかった…
ばっちりのポージング
嬉しくてサドゥーと記念撮影

バラナシ等では商業サドゥーも多く存在し、サドゥーたる姿も様々となってきてはいますが、こちらで出会った真理を追い求めるサドゥーの姿は、その姿勢に心打たれるものがありました。

 

 


■サドゥー

 

道中出会ったサドゥー。纏っている雰囲気がすごい。

サンスクリット語もしくはパーリ語で、ヒンドゥー教におけるヨガの実践者や放浪する修行者の総称。日本語では「行者」「苦行僧」などの訳語があてられてきました。現在、インド全域とネパールに、400万人から500万人のサドゥーがいるといわれています。ヒンドゥー教の聖地を巡ったり、各地を放浪したりしながら、ヨガや様々な宗教的実践を積んでいます。

 


 

ここで宿営地となるチルバサ、ボジバサについてご紹介。それぞれ小さなテント場となっており、炊事用の小屋が建っています。標高が上がるにつれ朝夕の冷え込みも厳しくなりますので、防寒対策等はしっかりとしたものが必要です。

 

チルバサテント場(2019年の撮影)。天気が良いと屋外にダイニングセットを設置してお食事です

ちなみにスタッフが用意してくれる食事はこんな感じです。
ヒンドゥーの聖地でもあるこのエリアでは、肉食は禁じられています(卵もほとんどでてきません)。野菜と、パニール(インドのチーズ)のカレーがメインです。ライスとともにいただきます。

 

昼食の一例。パニール(チーズカレー)、野菜カレーとライス。美味しい!!
朝ごはんの一例です

 

次回は、いよいよガンジス源流地点のゴウムクと、シブリンベースキャンプ到着です!
続きます。

 

 

 

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ガンジス源流へ! ヒンドゥー教の聖地、仙境シブリンベースキャンプ訪問①

ナマステ! 西遊インディアの橋本です。

 

みなさまバラナシにはもう訪問されましたでしょうか。母なる大河・ガンジスが悠々と流れるこの街は、ヒンドゥー教の聖地としてたくさんの巡礼者が訪れています。ガートではガンジスで沐浴する方が多く集まり、一年中にぎやかです。

 

ガートで沐浴するヒンドゥー教徒の方々
ガンジス川の朝。昼間の喧騒が嘘に感じるほど、静かです
熱心に沐浴に勤しむ

このガンジス川、遠くで川を眺めるには問題ないのですが、川岸に近寄ったり、ボートの上から川を覗き込んだりしますと、その色に結構ぎょっとします(色は緑色で、…さらに水面には油膜が張っています…)。岸にはたくさんのゴミが打ち寄せられ、聖なる川というのは頭では分かっていても、なかなか川の水に直接触れることは躊躇われます。見たままの通り、ガンジス川は、長年生活排水や産業廃棄物などがそのまま流されたため、汚染が大問題となっています。

 

そんな汚染が深刻なガンジス川ですが、当然ながら上流に行けばいくほど、驚くほど水が綺麗です。

 

・・・前置きが長くなりましたが、今回は、そんなガンジス川の上流を最奥まで突き進んだ場所にあるガンジス源流地点のゴウムクと、そこから氷河を横切った奥にある仙境・シブリンベースキャンプ(タポバン)まで行くトレッキングルートを、実際にトレッキングした際の写真等も多数交え、ご紹介します。
(トレッキング中の写真は、2017年~2019年に撮影したものです)。

 

 

■ガンジス川
その全長は約2525km、流域面積は約173万km²、ガンジス川本流の最上流部はバギラティー川と呼ばれており、ヒマラヤ山脈の南麓ガンゴートリー氷河を水源としています。その後デーブプラヤングという町にてアラクナンダ川とバギラティー川が合流し、ガンジス川となります。ハリドワールにて大平原へと流れ出し、カーンプル、ラクナウ、バラナシなどへと注ぎ、下流域ではチベット高原からアッサム州を流れてきたブラフマプトラ川と合流。さらにメグナ川と合流後バングラデシュへ入り、ベンガル湾へ流れ込みます。まさにインド亜大陸の北部を大縦断する、大河です。

 

古来より人々の生活に寄り添い、篤い信仰の対象となってきたガンジス川。ガンジス流域に住んでいる方々にとってはまさに生活そのものであり、ヒンドゥー教においては、ガンガーと呼ばれ女神として神格化されています。

 

 

■デリーからガンゴートリーへ
まずはガンジス川源流部・ガンガー女神が降下した聖地ガンゴートリー(標高3,048m)の町へ。このガンゴートリーという町が、ゴウムク、シブリンベースキャンプ(タポバン)へのトレッキングの拠点となっています。デリーからだと、全て陸路移動で行く場合は、

 

① デリー⇒リシケシ
② リシケシ⇒ウッタルカシ
③ ウッタルカシ⇒ガンゴートリー

 

という具合に3日間で刻んで移動します(お急ぎの場合は、2日間に移動時間を縮めることも可能ですが、ウッタルカシからガンゴートリーの道は道幅が非常に狭く、またがけ崩れ等も起きやすいので、余裕を持って3日間で組まれると安心です)。

 

リシケシは、ご存知ヨガのふるさと。たくさんのヨガ関連の宿舎や道場があります。時間があれば、早朝や夕方、ヨガ道場での体験レッスンもおすすめです。また夕方、ガンジス川のガートでは、ヒンドゥー教の礼拝儀式プジャ(アールティー)が行われます。バラナシ等に比べると規模は小さいですが、ここでもやはりたくさんのヒンドゥー教徒、観光客が訪れており、かなりの熱気を感じることができます。

 

リシケシからウッタルカシリシケシへの移動は、これまで通り過ぎてきた平野部とはガラリと変わり、出発していきなり山道を走って行きます。リシケシ⇔ウッタルカシ間は標高差が800m程あり、少しづつ標高を上げながらの走行です。

 

ウッタルカシ付近の景色。だいぶ標高も上がり、山々を見下ろせるようになってきました

順調に行けば、3日目のお昼頃にはガンゴートリーに到着します。途中、「ガンガーの母」という意味のガンガ・ナーニという町があり、温泉が沸いていることで有名ですので、順調に到着しそうでしたら立ち寄ってみてください(なかなか良い湯加減です)。

 

奥には寺院がありました。足湯にちょうどよい湯加減

いよいよガンゴートリーに到着!

ガンゴートリー(標高3,048m)は、ヒマラヤの四大聖地のひとつで、ガンガー女神がシヴァ神の髪を伝いこの地に降臨したとされる場所です。狭いエリアのなかに、安宿と、ちょっとしたバザールが広がっており、その奥にはガンゴートリー寺院が建っています。そしてその横にはやがてガンジス川と名前を変える、バギラティー川が流れています。

 

ガンゴートリーの町の入り口
ガンゴートリーのバザールは大変賑わっていました
ガンゴートリー寺院
バギラティ―川
夜のガンゴートリー寺院。たくさんの巡礼者が並び、祈りを捧げていました。

ガンゴートリーでの夕方のプジャを見学しました。静かな町中に大きな鐘の音が響き渡りるなか、儀式の様子を見守る信者の方々の後ろ姿は、印象に残るものでした。

 

次回②に続きます。

 

 

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ヒンドゥー教の神・シヴァ神とリンガ信仰

ナマステ! 西遊インディアです。

ヒンドゥー教の三柱の主神の一つであるシヴァ。インド国内で圧倒的な人気を誇る神として無数の寺院が奉じられており、ヒンドゥー教の一つのシンボルともいえる存在です。

 

シヴァ・ファミリー 左からガネーシャ、シヴァ、パールヴァティ、スカンダ
シヴァ・ファミリー 左からガネーシャ、シヴァ、パールヴァティ、スカンダ (出典:長谷川 明  著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)
踊るシヴァ(ナタラージャ)の像
踊るシヴァ(ナタラージャ)の像

今でこそ主神となったシヴァですが、アーリア人の『リグ・ヴェーダ』の中ではモンスーンの神・ルドラの別称とされ、神々というよりはアスラ(神に対しての悪魔)としてとらえられており、現在のような大きな力を持つ存在ではありませんでした。

モンスーン(暴風雨)による破壊と雨の恵みという2面性は後のシヴァに引き継がれ、アーリア人のインド進出後は土着のドラヴィダ系の神を吸収してシヴァ像が形作られていきます。現在の立ち位置は仏教やジャイナ教の勢力の拡大に対抗して行われたヒンドゥー教の再編成の中で徐々に土着信仰を吸収する中で生まれたものです。そのため、シヴァは元来の破壊と創造以外にも多くの事物を司るものとされ、またそれ自体が土着の神のヒンドゥー教化であるパフラヴィーやドゥルガーなどの女神を妻とすることで多くの神の領域を受け持っています。

 

そして、シヴァ信仰の最大の特徴となるのがリンガ信仰です。シヴァ寺院の奥の本殿には必ずシヴァリンガが置かれており、礼拝者たちが香油やミルク、花、灯明などを捧げています。

 

ムンバイ:エレファンタ島のシヴァ寺院のリンガ
ムンバイ・エレファンタ島のシヴァ寺院のリンガ

シヴァリンガは男性器の象徴であるリンガと、リンガが鎮座している台座で女性器の象徴であるヨーニから構成されますが、これは男女の合一を示すと考えられ、男女の神が一つとなって初めて完全であるというヒンドゥー教の考えを表す姿です。シヴァリンガが置かれる寺院の内部は即ち女性の胎内であることを示しています。シヴァを象徴する存在でもあり、シヴァ派のヒンドゥー教徒たちは寺院だけではなく自宅でも小さなシヴァリンガを祀って礼拝をすることもあるそうです。

 

男根崇拝は世界各地にみられるものですが、アーリア人はそれを野蛮なものとして忌避していたことが『ヴェーダ』から読み取れます。しかし土地に根付いていた非アーリア的/ドラヴィダ的な宗教要素が復活してくるにつれ、リンガ信仰はシヴァ信仰と結びつき大きく発展していきました。いわばアーリア系とドラヴィダ系の信仰を結ぶ懸け橋のような存在として、シヴァ信仰は大きく広がっていったと考えられます。

 

リンガ信仰の発生を示すこんな神話として、伝えられる神話があります。

 


ヴィシュヌが原初の混沌の海を漂っていた時、光と共にブラフマーが生まれた。自分こそが世界の創造者であると主張して引かない2神が言い合っていると、突如閃光を放って巨大なリンガが現れた。2神はこのリンガの果てを見届けた者がより偉大な神であると認めることに合意し、ブラフマーは鳥となって空へ、ヴィシュヌは猪となって水中へ、上下それぞれの果てを目指した。しかしリンガは果てしなく続いており、2神は諦めて戻ってきた。するとリンガの中から三叉戟を手にしたシヴァが現れた。シヴァはヴィシュヌもブラフマーも自分から生まれた者であり、3神は本来同一の存在であると説いた。

 


 

ヒンドゥー教では宗派によって神話の内容やその主役が入れ替わりますが、シヴァが世界の創造主であるとするこの神話はもちろんシヴァ派のもの。他の宗派の神話では、それぞれの主神が世界の創造主であることを示す神話(これも様々なバリエーションがありますが…)が存在します。

 

毒を飲んだシヴァは、ニーラカンタ(青黒い頸)と呼ばれるように(出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

ちなみにシヴァ神は中央アジア、東南アジア、そして日本にも広まり諸宗教に取り入れられています。日本の七福神の1人である大黒天は、シヴァから発展した神格であると考えられており、財と幸運の神として人気です。

シヴァ神のエピソードその他は、またの記事でご紹介いたします。

 

 

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