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ワタゲ・トウヒレン(Saussurea gossypiphora)

日本各地で紅葉が見頃を迎えるというニュースを目にする機会が増えてきました。
私も京都にでも出かけ、紅葉を楽しもうかと計画中です。

 

本日は、久々にアジアの花をご紹介します。
皆さん「セーター植物」という言葉はご存知でしょうか?
11月下旬ともなると「今日は寒くなりそうだからセーターを1枚追加しよう」と考えることもあるかと思います。高山植物も同じです。環境の厳しい条件(低温が続く高地など)に耐えるため、太陽エネルギーの吸収のため、全体を綿毛で覆う植物もあります。

そのような植物を「セーター植物」と言います。

今回はセーター植物の中でも代表的な「ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)」をご紹介します。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)①

被子植物 双子葉類
学名:Saussurea gossypiphora
和名:ワタゲ・トウヒレン 英名:Snow ball
科名:キク科  属名:トウヒレン属(Saussurea)

 

トウヒレン属は、中国西部の山岳地帯を中心として北半球に多く分布します。
シノ・ヒマラヤ地域(中国南西部からヒマラヤにかけての山岳地帯のことを植物地理学上ではそう呼びます)では、綿毛で覆われたセーター植物や、苞葉(ほうよう:花芽を包む葉)に覆われた温室植物、地上茎がなく茎が伸びず葉を地上に広げたロゼッタ植物など、トウヒレン属の植物は厳しい環境に対応する様々な適応・順応が見られます。

 

セーター植物の代表例ともいえるワタゲトウヒレンは、インドのガルワールからブータン、チベット南部で観察することができ、地域によって多少の誤差はありますが、7月中旬~8月後半にかけて観察することができます。
もう10年以上前になりますが、私も夏のブータンで観察することができ、お客様とその姿を観て興奮したことを覚えています。

 

荒涼とした礫質の斜面に多く生え、高さは10~20㎝ほど。基部の葉は細長く、長さは10㎝前後で縁がギザギザとした鋸歯です。
一見アザミを思わせる姿形ですが、葉や茎に棘はありません(これもトウヒレン属の特徴)。チベットで観察できるもの、ブータンで観察できるもの、鋸歯の形状が少し異なります。

上の写真①がチベットで観察したもと、下の写真②がブータンで観察したものです。葉の違いが見てとれるかと思います。

観察した時の写真はフィルム写真だったので、下の写真②は2019年に弊社太田がブータンで撮影した写真を拝借しています。

綿毛の様子もはっきりわかるキレイな写真です。

 

茎の中部から上部の葉に綿毛が生え、直立して花序(かじょ)をふんわりと包みます。茎の頂部は半円上に広がり、直径5㎜程度の小さな花(花の色は少し濃い紫です)を密集して咲かせます。

 

全体を覆った綿毛は「花粉媒介を行う昆虫を誘うための装置」とも言われています。
昆虫の活動も低温によって制約を受けてしまいます。寒さをしのぐため、綿毛に覆われたセーター植物に避難するそうです。
全体を覆っているように見えますが、頂部には小さな穴が開いており、蜂などが出入りをし、花の花粉媒介を助けます。
※ある資料には、内部の温度は外気温より15度前後も温かいというものもあります。

 

シノ・ヒマラヤ地域の高地で綿毛に包まれたワタゲトウヒレンを観察すると、その真っ白な姿に目を奪われます。その真っ白な綿毛には、保温効果とともに、花粉媒介を誘導するような仕組みもあることも知っていると、また少し見方も変わるかもしれません。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)②
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青いケシ「メコノプシス・ホリドゥラ」(Meconopsis horridula)

先日、我が家の最寄駅で六甲高山植物園の「ヒマラヤの青いケシ展」の広告看板が目に留まりました。ゴールデンウィーク明けから開催されており、6月23日(日)までのようです。ロックガーデンには、高山植物の女王として知られるコマクサやエーデルワイスなども観察できるそうです。週末に行ってみようと思います。

 

今回は青いケシの花の1種である「メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)」の花をご紹介します。

青いケシの花「メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)」

被子植物 双子葉類
学名:メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)
英名:Prickly Blue poppy
科名:ケシ科(Papaveraceae)  属名:メコノプシス属(Meconopsis)

 

青いケシの「メコノプシス属(Meconopsis)」は、ヒマラヤの高山地帯(パキスタン、インド北部、ネパール、ブータン、チベット自治区)、中国の高山帯(青海省、甘粛省、四川省、雲南省)などに分布をする一年生もしくは多年生の花です。
イギリスに野生のメコノプシス属が一種あるそうです。

 

属名のメコノプシス(Meconopsis)は、ギリシャ語が由来、「mekon(けし) + opsis(似る)」が語源とされています。
葉は互生で、萼片は2~3枚、花弁は4~5枚、多いもので16枚という種もあります。
花は横から下を向き、強い光を受けると花弁のしわがのびて全開すると言われています。
花の色は多彩で、黄色、青、青紫、赤、淡紅、白色などがあり、気候条件などにより色が変化するそうです。

 

メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)は、ヒマラヤなどの標高4,000mを越えた地域に自生します。ある資料には標高7,000mでも観察された記録があるそうです。
長さが7~10㎜に達する棘毛が密生し、硬質で折れにくい。葉は長円状で、短い柄を含めて2~10㎝、花は直径2~5㎝で、全体の高さは3.5~30㎝です。花は一株に5~20個も付けます。

 

先程、天候によって色の変化が生じると記載しましたが、このメコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)も日照の強い場所に自生するものは色が濃く、花期に降雪や氷結に見舞われると紫紅色に変化します。

 

私がこのメコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)を初めて観察したのは、大阪の鶴見緑地でした。1990年に開催された国際花と緑の博覧会のブータン館でした。ブータンでは国の花に指定されています。
その時はあまり目に留まらなかったのですが、その後、海外添乗に出るようになり、中国の四姑娘山の山麓やインド・ザンスカール、ブータンなど、様々な場所で観察することができました。

 

約50種にも及ぶメコノプシス属の花ですが、「青いケシ」と言えばどの種なのでしょうか。私の認識では、今回ご紹介した「メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)」でした。色々と調べると「幻の青いケシ」などと紹介もされていました。

ただ、別種のメコノプシス・ベトニキフォリア(Meconopsis betonicifolia )は「Himalayan blue poppy」と称され「ヒマヤラの青いケシ」と紹介されています(主産地は中国雲南省の高山地帯のようです)。
その他、メコノプシス・グランディス(Meconopsis grandis)は、主産地がヒマラヤで中国には産しないので「ヒマヤラの青いケシ」の名にふさわしい、という資料もありました。
ただ、どの種も気象状況により色合いの変化はみられるようです。

 

調べるうちに頭が混乱することもありましたが、やはり各地、各国の高山地帯で青いケシに出会った時は、どのような状況下でも、高山病が吹っ飛び、笑顔になります。ようやく出会えた喜びとともに、日の光を浴びた際、薄い花びらが透きとおる青色(薄紅色など)が、何とも言えない美しい姿を見せてくれます。

この夏は青いケシを求めて、中国・四姑娘山の山麓やブータンの高山地帯などへ訪れてみませんか?

美しい青いケシ(メコノプシス属)
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デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)

ゴールデンウィークも終わり、いよいよ本格的な高山植物のシーズンが近づいてきました。皆さんはどちらの国へ花の観察にお出かけされる予定でしょうか。
近所に咲く「のだふじ」の見頃も終え、次はどのような花が観察できるのか注視しながら出勤する毎日が続いています。

 

本日紹介する花は、ブータンで観察した着生ランの1つ「デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)」です。

デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)

被子植物 双子葉類
学名:デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)
科名:ラン科(Primulaceae) 属名:セッコク属(Dendrobium )

 

中国南部、インド、マレーシアなど広く分布する着生ランですが、私がこの着生ランを観察したのは、春のブータンの峠道で花の観察を楽しんできる時でした。

 

茎が20㎝から60㎝もの長さとなり、斜上するか、垂れ下がるように伸びています。若い茎に長さ5~10㎝ほどの楕円状の葉を付け、落葉後、茎の節に1~2個の花を咲かせます。開花期は春です。
花は淡い紫色の色合いで、直径は3~5㎝ほど。唇弁(しんべん)は白く(クリーム色)ラッパ状に丸くなり、よく観察すると唇弁の先が細裂し、表面には軟毛があるのが判ります。萼片と側花弁は白から淡い桃色になり、紫の筋紋や斑紋が入ります。

 

1つ1つの花をじっくり観察しても印象的な着生ランですが、緑あふれる森林で花の観察を楽しんでいると、垂れ下がる茎に「しだれ桜」のようにたくさんの花を付けるデンドロビウム・アフィルムを観察することもできます。
開花期に葉がないことが(落葉後に花を咲かせます)、印象深い色合いを際立たせているのかもしれません。

 

ブータンなど、アジアの低山帯では、様々な着生ランを観察することができますが、種類を問わずラン科の花を見つけると心が踊ります。
「世界の各地へ着生ランを求める旅」、いつしか実現させたいものです。
またいつか、別の種類の着生ランも紹介させていただきます。

樹木に垂れ下がるデンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)
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サクラソウ:プリムラ・グリフィシー(Primula griffithii)

ゴールデンウィークに入り、我が家の近所の公園では「のだふじ」の藤棚がキレイに咲きそろっていました。
平成も残すところ、あと数日。平成最後の「世界の花だより」のブログ更新となります。

 

本日ご紹介する花は、前回に引き続きブーダンで観察したサクラソウの1つ「プリムラ・グリフィシー(Primula griffithii)」をご紹介します。

プリムラ・グリフィシー(Primula griffithii)

被子植物 双子葉類
学名:プリムラ・グリフィシー(Primula griffithii)
科名:サクラソウ科(Primulaceae) 属名:サクラソウ属(Primula)

 

プリムラ・グリフィシー(Primula griffithii)は、ブータン西部からチベット南部に棲息し、亜高山帯で群生するサクラソウです。

葉には幅の広い柄があり、葉身(ようしん:葉の平らな部分)は卵型や長円形、長さは5~15㎝。葉の先は尖り、周囲には鋸歯があります。
花茎は高さが15~30㎝ほどで多くの花を付けます。花柄(かへい:花軸から分かれ出て、その先端に花をつける小さな枝)は長さ1~2㎝。萼(がく:花びらの付け根(最外側)にある小さい葉のようなもの)は鐘型で、長さは1㎝弱。
花は地域によって異なりますが、概ね4~5月に開花し、青紫色で平開し直径2~3㎝ほど、花びらは5枚です。

 

先日紹介したプリムラ・デンティキュラータ(Primula denticulata)と同じく花の基部は筒状で、中心部は黄色。花びらは5枚で、それぞれの花びらの先端がハート形の切れ込みが入っています。

 

プリムラ・デンティキュラータ(Primula denticulata)の淡い色合いと違い、濃い青紫色が印象的なため、車道を走りながら、また林間部でフラワーハイキングを楽しんでいると、すぐに目に飛び込んでくるサクラソウの1つです。

 

前回から2回続けてサクラソウを紹介させていただきましたが、少し残雪の残るヒマラヤの国々で、多種多様なサクサソウを探す旅に出掛けたくなりました。
皆さん、ご一緒にいかがですか?
次回は、ブータンでサクラソウと同時期に咲く、着生ランを紹介します。

プリムラ・グリフィシー(Primula griffithii)
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サクラソウ:プリムラ・デンティキュラータ(Primula denticulata)

私の住む大阪市福島区では「のだふじ」が区の花となっています。我が家の近所では、まだ満開とはいきませんが、日を追うごとに花の数を増やしていく花の様子を観察しながら出勤するのがここ最近の楽しみの1つです。

 

本日の花はサクラソウ。その中でもくす玉のように花を咲かせる「プリムラ・デンティキュラータ(Primula denticulata)」をご紹介します。

デンティキュラータ サクラソウ(玉咲桜草 Primula denticulata)

被子植物 双子葉類
学名:プリムラ・デンティキュラータ(Primula denticulata)
和名:タマザキサクラソウ(玉咲桜草)
科名:サクラソウ科(Primulaceae) 属名:サクラソウ属(Primula)

 

サクラソウ科 のサクラソウ類はシャクナゲと同じく北半球の広い地域で観察でき、いずれもがヒマヤラから中国の雲南省にいたる大山岳地帯で発達と種分化を遂げたと言われています。
プリムラ・デンティキュラータの原産地もヒマヤラの山岳地帯や中国西部と言われており、カシミールからヒマラヤ東端までの高山帯で、ヤクの放牧場などでも観察することができます。

 

草丈は10~30cmで、茎頂に散形花序(多数の花が放射状についている花序)を作り、薄紅紫色の花を球状に咲かせます。花の基部は筒状で、中心部は黄色。花びらは5枚で、それぞれの花びらの先端がハート形の切れ込みが入っています。
ロゼット状(地表に平らに並べた形状)に葉が根生し、鋸歯があり、葉柄(葉と茎を接続している小さな柄)がないのが特徴です。

 

冷涼で湿潤な高山帯に自生し、放牧場でもヤクやウシが食べないので、そうした場所で際立った美しいサクラソウの群生を観察することができます。

 

私はこのプリムラ・デンティキュラータ(Primula denticulata)の写真を見るとブータンを思い出します。
時期はゴールデンウイーク前後。街から街を結ぶ標高3,000m以上の峠を越える際、車道の脇に咲き揃うサクラソウの数々。思わず高所ということを忘れ、車を降りて峠へ向かう道路の脇をサクラソウを観察しながら歩いたことを思い出します。
ブータンで観察したその他のサクラソウは・・・また後日ご紹介します。

 

<プリムラ・デンティキュラータを観察できるツアー>
幸せの王国ブータン 3つの里を巡る旅

デンティキュラータ サクラソウ(玉咲桜草 Primula denticulata)