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エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)

6月も終わり、いよいよ明日から7月に入ります。梅雨時期に咲くアジサイなどの花に隠れて、大きくなってきたユリの蕾が花開くシーズンです。
先日ネットニュースで「ユリ王国は極東にあり!日本の山野は美しい自生ユリの宝庫だった」という興味深い話が掲載されており、私も7月22日出発「甑島列島探訪と噴煙たなびく桜島」に同行させてもらい、甑島のカノコユリを観察を楽しむため、思わず夢中になって見てしまいました。
興味深いユリの話、またカノコユリの紹介などは、追ってさせていただきます。

 

先日に引き続き、キク科ヒゴタイ属の一種である「エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)」をご紹介します。

 

エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)

 

被子植物 双子葉類
学名:エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)
科名:キク科(Asteraceae)
属名:ヒゴタイ属(Echinops)

 

エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)は、アフガニスタンから中央ネパールに分布し、極度に乾燥した谷の礫地などに自生します。標高2,500~3,500mの高地に自生するものもあります。私がエキノプス・コルニゲルスを観察したのは、北部パキスタンのインダス川に沿ってカラコルム・ハイウェイを走行している道中でした。

 

草丈は50㎝から、1m近いものもあり、直立した茎は少し太さを感じるほどです。
葉は長さが15~30㎝ほどで羽状中裂し、鋸のような形状をした葉からは長さ2㎝ほどの鋭い棘が突き出ています。この葉の様子から「アザミの一種かな?」と感じてしまいます。

 

太い茎頂には直径7~8㎝ほどの球状頭花をつけるのですが、茎頂に1つだけ付ける頭花は、開花状況によって印象が異なります。
つぼみの状態の時は刺状の総苞片(つぼみを包むように葉が変形した部分)が目立つため、イガグリのように見えます。
つぼみから花が開き始めると長さが2㎝弱の白から淡紫色の細い花弁が確認でき、花弁の5裂して先端が少し反り返るため、全体の形状がより丸くなり、まるでくす玉のような形状となります。
この特徴は、先日ご紹介したオクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)と同じです。

 

色合いが異なりますが、皆さんはどちらの色合いがお好みでしょうか。
個人的には淡い色合いのエキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)の方が好みです。

 

北部パキスタンへ訪れ、カラコルム・ハイウェイを走行しているとバス車中からこのエキノプス・コルニゲルスが咲いていないか、気が付いたら夢中になってあたりを探していることがあります。
是非、皆さんもエキノプス・コルニゲルスを観察するため、パキスタンへ訪れてみてください。その先には雄大なヒマラヤ山脈やカラコルム山脈の景観が待っており、各所で高山植物が楽しめる場所でもあります。
※ちなみに上写真は7~8分咲き、下写真はほぼ満開の状況です。

 

エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)
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オクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)

先日ネットニュースで「北海道の牧場は大忙し」という記事を見つけました。
6月中旬になると晩秋から冬の間の牛の貴重な食糧となる牧草の収穫が始まり、天気予報を注視し、牧草の収穫の日取りを決めるそうです。
一年ではじめに収穫される牧草は一番草と言い、一番草のおよそ50日後の8月上旬に収穫する牧草を二番草と言うそうです。ビールでいう「一番搾り」と同じでしょうか?
まだ6月で、これから夏の到来と思っていましたが、北海道の牧場では冬のための作業が始まっているという驚きのニュースでした。

 

本日は手毬のような球体の花が印象的な「オクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)」をご紹介します。

 

オクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)

 

被子植物 双子葉類
学名:エキノプス・ラティフォリウス(Echinops latifolius Tausch)
漢字名:奥瑠璃平江帯
モンゴル名:ウルグン・ハフチット・タィジィーンズス
科名:キク科(Asteraceae)
属名:ヒゴタイ属(Echinops)

 

ヒゴタイ(平江帯、学名:Echinops setifer)は、日本・朝鮮半島・中国が原産と言われるキク科ヒゴタイ属の多年草、日本でも西日本から九州に自生します。
本日ご紹介するオクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)はロシアやモンゴルが原産と言われており、私が観察したのはモンゴルでフラワーハイキングを楽しんでいた道中でした。

 

長く伸びた茎は直立し、草丈は比較的背が高く、70~100㎝ほどです。
花は細長い楕円形をしており、葉の縁が刺々しく、葉も硬さを感じるほどです。この辺りが、アザミに似た品種と言われる所以かもしれません。

 

花期は7~8月、砂地の多い草原などで自生します。
濃紫色で1㎝弱の筒状の花が密集し、直径3~5㎝ほどの球体の姿をした花を咲かせます。花の付き方、花の形状は「手毬のように咲く」「くす玉のように咲く」「ぼんぼりのように咲く」と表現は様々ですが、見事な球体がとても印象的です。
似た花としてヨーロッパ原産のルリタマアザミ(瑠璃玉薊)やカラコルム・ハイウェイ(北部パキスタン)をドライブしていると道路脇でよく観察できるエキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)があります。

 

属名の「エキノプス(ヒゴタイ属:Echinops)」は「ハリネズミのような」という意味のギリシャ語に由来すると言われていますが、花の大きさから「イガ栗のような」という表現の方が良いと感じるような姿をしています。
特に蕾の状態の時は特に感じます(花を咲かせる前は緑色の球体です)。

 

オクルリヒゴタイは草丈が高いこともあり、フラワーハイキングを楽しんでいるとすぐに目に飛び込んでくる花です。
花の咲く前から形状は球体ですが、花が開き始める緑色から、徐々に淡い紫色となり、満開になると濃紫色へ変化します。
ハイキングの道中で一度足を止め、花の形状だけではなく、筒状の小さな花の1つ1つ、さらには観察の際の開花具合による花の色合いなど、じっくりと観察を楽しんでほしい花の1つです。

 

オクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)
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リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)

先日、南極半島ではじめて緑色の雪が発見された地域を地図化したという興味深いネットニュースを見つけました。研究を率いたケンブリッジ大学植物科学科のMatt Davey教授は「雪面で1,679個の緑藻類の花を見つけました」と語っています。
緑藻類の花は、南極大陸で最も温暖化が進んでいる南極半島の西海岸に沿った島々で発生し、暖かくなるにつれて南極の雪面で胞子が発芽し、雪解け水の流れに乗って成長していくそうです。
また、野生動物の糞によって藻類が繁殖し、雪が緑色になることも判り、研究チームが地図化した緑藻類の花の60%以上は、ペンギンのコロニーやアザラシの生息地域の海岸から3マイル(約4.8km)以内で発見されたそうです。
未だ緑の雪がどのような影響をもたらすか不明な部分も多いようですが、グリーンランドで行われた雪原藻類の研究では、雪が吸収する日光と熱の量を増加させ、氷を早く溶かしてしまうことがわかっています(南極では過去10年間で3倍の氷が失われています)。今後の研究結果にも注目していきたいと思います。

 

本日はドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされるトリカブトの一種、ヨーロッパなどに自生する珍しい色合いのトリカブトである「リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)」をご紹介します。

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Aconitum lycoctonum(アコニツム・リコクトヌム)
別名:Aconitum vulparia(アコニツム・ブルパリア)
英名:Yellow Wolfsbane
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:トリカブト属(Aconitum)

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)は、毒草で有名なトリカブトの一種です。トリカブトはキンポウゲ科と案内すると驚かれる方も多いです。

 

ピレネー山脈、ヨーロッパ・アルプス、アペニン山脈(イタリア半島を縦貫する山脈)にかけての山岳地帯、西アジアにも自生する多年草です。私が観察したのは、スイスやピレネー山脈でのフラワーハイキング時でした。

 

草丈は50~120㎝と高く、開けた林内や標高2,000m前後の草原・牧草地などに自生します。
葉は掌状に3~6中裂し、全草が有毒で、とくに根には強い毒性があります。

 

花期は6月~9月、無毛の茎先に穂状の総状花序(総 (ふさ) の形になっている花のつき方)、長い花柄(かへい:花軸から分かれ先端に花をつける小さな枝)の先にクリーム色の花を咲かせます。
世界に約300種、日本には約30種が自生するそうですが、トリカブトと言えば紫色というイメージが強いため、クリーム色の花を「トリカブトですよ」と説明しても驚かれたり、信じてもらえないことがあります。

 

トリカブトの名前の由来は、花の形状が鳥兜・烏帽子に似ていることから名付けられたと言われており、海外では「僧侶のフード(monkshood)」と呼ばれています。

 

花弁がめしべやおしべを包んでいるような形状をしているように見えますが、実はクリーム色の部分は花弁ではなく、全て萼片(がくへん:花の最も下(外)側に生ずる器官で,葉の変形したもの)です。
合計5枚の萼片をもち、一番上の1枚(上萼片)は兜状で蜜を貯め込んだ部分を守る形状であり、雨対策の意味合いを持ちます。
ある資料には2枚の側萼片は受粉活動を担うマルハナバチの姿勢を制御する役割をもち、下萼片2枚はマルハナバチが花にとまるときの足場の役割をもち、この4枚の萼片がないと、効率的に花粉をつけられないとありました。

 

トリカブトの花弁は一番上の1枚(上萼片)に隠れており、上部が山菜のゼンマイのように渦を巻いており、そこに蜜を貯め込みます。トリカブトの形状は盗蜜できない構造となっており、虫媒花として最も進化した花とも言われています。

 

ピレネー山脈で上萼片に隠れているリコクトヌム・トリカブトの花弁を観察しようと思い、手を伸ばした際に現地ガイドから止められたことを覚えています。花に手をかけることに対して注意されたのか、毒性で危険だから止められたのか・・・そこまで覚えていませんが、一度じっくりと観察してみたいです。

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)②
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ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)

先日までつぼみだったツツジの花も徐々に開花が始まり、近所ののだふじ(大阪市福島区の花)のつぼみの先からもふじの花の色合いが見え始めました。

我が家の近所の彩り豊かになり、のんびり散歩でも楽しみたいと感じる毎日です。

 

本日は「ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)」をご紹介します。

 

ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)

学名:Chamaenerion latifoliumまたはEpilobium latifolium
科名:アカバナ科(Onagraceae)
属名:ヤナギラン属(Chamaenerion)
和名:ヒメヤナギラン 英名:Dwarf Fireweed(アラスカ)

 

ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)は、アカバナ科のアカバナ属(Epilobium)に分類されることもありますが、近縁種ヤナギラン(Chamaenerion angustifolium)を含むヤナギランの仲間は、葉が互生(茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)し、花が総状につき、はじめは花柱が下向きに曲がるなどの点で他とは異なることから、ヤナギラン属(Chamaenerion)として分けられています。

 

ヒメヤナギランはヨーロッパ、アジア、北アメリカ、北極圏、亜極圏など、北半球の温帯地域から寒帯地域に広く分布するアカバナ科(Onagraceae)に属する多年草です。私も過去にパキスタンのバルトロ氷河のモレーン帯や、アラスカのデナリ国立公園などで観察しましたが、今回掲載させていただいたヒメヤナギランの写真は「グリーンランド」で観察したものです。

 

葉は無柄で長さが3~5cmほど、細長く先のとがった披針形をしており、生息地によって異なるようですが毛が生えているものや蝋質で無毛のものもあるそうです。グリーランドで観察したものは、僅かながら産毛のようなものが生えているのが確認できました。
花茎は近縁種ヤナギラン(Chamaenerion angustifolium)に比べて小型で、高さは20~50cmほど。全体に微細な毛が密集し、花茎がほんの少し粉白色を帯びているように感じるくらいです。
花柄は1~2cmと短く、鮮やかなピンク色の花弁が4枚つき、直径が3~6cmとヤナギランに比べて大きな花を咲かせます。また、4枚の花弁の裏側には先のとがった濃い紫色の萼片(がくへん)があり、正面から見ると4枚のピンク色の花弁の間から濃い紫色の萼片が見え、より印象的な色合いの花となります。

 

ヒメヤナギランは学名、和名以外にも各地で様々な名称、呼ばれ方があります。

 

北米のアラスカでは、伐採地や針葉樹林帯の山火事跡などでいち早く花を咲かせ、群生地を作り出すことから「Dwarf Fireweed」と呼ばれています。
今回掲載させていただいたヒメヤナギランの写真は「グリーンランド」で観察したものですが、グリーンランドではヒメヤナギランは象徴的な花とされ「niviarsiaq(少女)」と呼ばれています。

 

ヒメヤナギランは全ての部分が食用であり、ほうれん草の様な味がするそうです。
イヌイットの人々は生葉をサラダとしてアザラシとセイウチの脂身を食べたり、水に浸したお茶を飲んだりするそうで、イヌイットの人々にとって貴重な栄養を提供する植物であると、グリーンランドのガイドさんが説明されていました。

 

世界各地で観察したヒメヤナギランですが、観察する場所、場面で印象も変わってきます。私の大好きな氷河の風景とヒメヤナギランの群生する風景は忘れることのできない思い出の1つです。

グリーンランドの氷河とヒメヤナギラン
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デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)

ここ数日温かく天気の良い日が続いており、近所のあちらこちらでツツジが咲き始めています。私の自宅近くの蕾も大きくなり、開花も間もなくという状況です。
また、兵庫県丹波篠山市では大輪のシャクナゲ(ツツジ科)が咲き始めているというネットニュースを観ました。例年「にしきシャクナゲまつり」が行われているそうですが、今年はコロナウイルス騒動のため中止になってしまったそうです。残念なニュースですが、例年通りキレイなシャクナゲが咲いているというニュースは外出自粛が続く中、ほっこりとするニュースでした。

 

本日も前回に引き続き、インド・ザンスカール地方で観察した花の1つ「デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)」をご紹介します。

 

デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)

被子植物 双子葉類
学名:デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:デルフィニウム属またはオオヒエンソウ属(Delphinium)

 

属名の「デルフィニウム(Delphinium)」は、ギリシャ語でイルカを意味する「delphis」を語源とし、花の蕾の形がイルカに似ていることに由来するとされています。また、同じ属名で「オオヒエンソウ属」と紹介される図鑑などもありますが、これは和名の「大飛燕草(オオヒエンソウ)」からきており、花の形状が燕の飛来する形に似ていることが由来するとされています。

 

デルフィニウム属は、世界に約350種があり、北半球の温帯~寒帯に広く分布し、少数がアフリカの高地に分布します。英名ではbee larkspur 、larkspurと呼ばれています。

 

デルフィニウム・カシメリアヌムは、パキスタンからヒマラヤ西部、インド・ガルワール地方に分布し、乾燥した高山帯の岩礫地や斜面の草地に生え、花期は7~9月です。

花茎の高さは10~50cm、上部に軟毛が生え、葉の幅は3~8cm、葉の表裏にも太い毛がまばらに生えているのが確認できます。

花は散房状(下の方の花柄は長く、上の方は短い花がほぼ一面に並んで咲く状態)につき、花柄(先端に花を付ける柄の部分)は長さ4~7cm、花弁は暗紫色で、まばらに軟毛が生える淡い紫色の萼片(がくへん)で覆われています。

 

私がデルフィニウム・カシメリアヌム (Delphinium cashmerianum) を観察したのがインドのザンスカール地方で、標高5,000mのシンギ・ラ峠、さらには標高4,430mのキュパ・ラ峠の2つを1日で越えるトレッキングの道中でした。
最初の峠であるシンギ・ラ峠を目指す中、斜面に咲くデルフィニウム・カシメリアヌムやトラノオの一種の花が一面に咲き誇り、周囲の岩山、青空の色合いと相まって一服の清涼剤、活力になったのを覚えています。
岩山とデルフィニウム・カシメリアヌムの花を入れる構図の撮影は、標高4,000mを越える礫地で腹這い状態での撮影、まさに命がけの撮影でした。ただ、命懸けでも撮影したいと思えるほど可憐な花でした。

命懸けで撮影した「デルフィニュウム・カシメリアヌム」
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プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)

引っ越しをして早一年。この時期には近所に咲くコブシの花が1つの楽しみでした。
週末に嫁さんと近所を散歩していた時、近所の学校の敷地内から歩道に乗り上げるように咲くハナモクレンの花を見つけました。
思わず足を止めて観察をしながら、新たな春の楽しみを1つ見つけたことに喜びを感じる週末でした。

 

本日は、中央アジアのキルギス共和国で観察したオキナグサの一種である「プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)」をご紹介します。

プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)

被子植物 双子葉類
学名:プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae) 属名:オキナグサ属(Pulsatilla)

 

プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)はアルタイ山脈からパミール山脈に分布し、下向きにベル状の花を咲かせます。
属名の「Pulsatilla(パルサティラ)」は、花の形から「鐘」に例えられ、ラテン語の「pulso(打つ、鳴る)」が語源と言われています。

 

多年草で直立または斜上する太い根茎を持ち、根茎から根出葉を束生させます。
茎につく葉は3枚が輪生し、若い時の葉は長い白毛で被われています。
花茎の先に1つの花をつけ、花弁状の萼片は5~12枚あり、外面に長い白毛が生えています。花弁は無く、おしべが棍棒状に変形した仮雄蕊(かゆうずい:雌雄異花植物の雌花に見られる)が蜜を分泌するそうです。
キンポウゲ科なので、花後に花柱の長い白毛がさらに伸長し、羽毛状になります。

花柱の長い白毛がさらに伸長し、羽毛状になる

オキナグサ属の花は、北半球の暖帯以北に広く分布し、約45種が知られています。日本ではオキナグサ(Pulsatilla cernua)、ツクモグサ(Pulsatilla nipponica)の2種が分布します。

 

私がプルサチラ・カンパネルラを観察したのが、キルギスの名峰レーニン峰のベースキャンプ周辺でのんびりハイキングを楽しんでいる時でした。
レーニン峰の展望を楽しむはずのハイキングでしたが、このプルサチラ・カンパネルラをはじめ、数々の高山植物が観察することができ、レーニン峰の展望はそっちのけで高山植物の観察を楽しんでいました。

 

キルギス共和国は高山植物の宝庫です。特に7月は高山植物の観察のベストシーズンです。まだ見ぬ素晴らしい高山植物を求めて、是非キルギス共和国を訪れてみてください。

プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)の穂
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レオントポディウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)

本日は、私がこれまで添乗させていただいたトレッキング・ツアーの中で、最もしんどかったネパール・エベレスト街道のクーンブ氷河上で出会い、心癒された、忘れられない花の1つ「レオントポディウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)」を紹介させていただきます。

レオントポティウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)

被子植物 双子葉類
学名:レオントポディウム・モノケファルム
科名:キク科  属名:ウスユキソウ属(Leontopodium)

 

レオントポディウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)はネパール中部~インドのシッキム、チベット南部に分布、花期は7~9月ですが、私が出会ったのは11月でした。

 

高山帯の氷河沿いの岩間や砂礫地で細く根茎を伸ばして群生し、高さは1~5㎝、私が観察した時は真っ白で可憐な色合いでしたが、乾燥すると全体に金色を帯びることもあるようです。
表面に厚い綿毛をつけ、葉の長さ5~20㎜、苞葉群(白い部分)は直径2~3㎝ほどです。

頭花は通常1つ、直径は5~7㎝、大型のものはその周囲に数個の小さな頭花を付けます。

 

この花に出会ったのは2014年11月、可憐な花との出会いは全く想像もしていなかった1日でした。

コンマ・ラ峠手前でマカルー峰展望
コンマ・ラ峠からマカルー峰を展望

朝、ローチェ南壁を目の前に望むテント場を出発し、昨日降った新雪が積もる急登ルートを登りながらこの日の難関であるコンマ・ラ峠(5535m)を目指していました。

 

息も絶え絶え、何とか急登ルートを登り切り、周囲を見渡すとマカルー峰(8463m)をはじめとする素晴らしい景観が広がっていました。

 

その後、再びガレ場の狭いルートを登り上げ、難関だった標高5535mのコンマ・ラ峠に到着頃には喜びと疲労が、複雑に絡み合うような思いでした。

 

ここで展望したマカルー峰の景観は忘れることができない光景であり、その時ご一緒した皆さんの疲労と感動が入り混じった笑顔も忘れることができません。

 

クーンブ氷河へ向けて下る
クーンブ氷河上から望むプモリ峰

コンマ・ラ峠で絶景をゆっくりと楽しんだ後、クーンブへの下りルートがスタートしました。
降り積もった雪が凍結していたため、アイゼンを着用しながら慎重に下っていると雪解けの影響で崖崩れにも遭遇し、恐る恐るの下山ルートでした。

 

コンマ・ラ峠からの急下りルートを下り切ると、クーンブ氷河のモレーン麓からいよいよ「クーンブ氷河の横断」を開始しました。

クーンブ氷河横断の際にも周囲の山々の景観、氷河上の氷河湖の景観を楽しみながら歩きましたが、恐怖の中で下りルートを終えたばかりだったこともあり、私も疲労困憊でした。

 

そんな時でした!ガレ場の陰に小さな花の姿が目に飛び込んできました!!

 

レオントポディウム・モノケファルムの可憐な花を観察していると、心が癒され、標高が5,000m以上の地でまさに命がけの撮影を楽しみました(右の写真のような場所でこの花が一株だけ咲いていました)。

 

世界各国の様々な氷河を見てきて、トレッキングもしてきました。パキスタン・バルトロ氷河、パタゴニアでのトレッキングなどを楽しんでいると、モレーン帯にはたくさんの花々が咲いているとは思っていましたが、ネパールのエベレストの麓のクーンブ氷河で咲いていたレオントポディウム・モノケファルムは一生忘れることができない花となりました。

レオントポティウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)②

 

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ワタゲ・トウヒレン(Saussurea gossypiphora)

日本各地で紅葉が見頃を迎えるというニュースを目にする機会が増えてきました。
私も京都にでも出かけ、紅葉を楽しもうかと計画中です。

 

本日は、久々にアジアの花をご紹介します。
皆さん「セーター植物」という言葉はご存知でしょうか?
11月下旬ともなると「今日は寒くなりそうだからセーターを1枚追加しよう」と考えることもあるかと思います。高山植物も同じです。環境の厳しい条件(低温が続く高地など)に耐えるため、太陽エネルギーの吸収のため、全体を綿毛で覆う植物もあります。

そのような植物を「セーター植物」と言います。

今回はセーター植物の中でも代表的な「ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)」をご紹介します。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)①

被子植物 双子葉類
学名:Saussurea gossypiphora
和名:ワタゲ・トウヒレン 英名:Snow ball
科名:キク科  属名:トウヒレン属(Saussurea)

 

トウヒレン属は、中国西部の山岳地帯を中心として北半球に多く分布します。
シノ・ヒマラヤ地域(中国南西部からヒマラヤにかけての山岳地帯のことを植物地理学上ではそう呼びます)では、綿毛で覆われたセーター植物や、苞葉(ほうよう:花芽を包む葉)に覆われた温室植物、地上茎がなく茎が伸びず葉を地上に広げたロゼッタ植物など、トウヒレン属の植物は厳しい環境に対応する様々な適応・順応が見られます。

 

セーター植物の代表例ともいえるワタゲトウヒレンは、インドのガルワールからブータン、チベット南部で観察することができ、地域によって多少の誤差はありますが、7月中旬~8月後半にかけて観察することができます。
もう10年以上前になりますが、私も夏のブータンで観察することができ、お客様とその姿を観て興奮したことを覚えています。

 

荒涼とした礫質の斜面に多く生え、高さは10~20㎝ほど。基部の葉は細長く、長さは10㎝前後で縁がギザギザとした鋸歯です。
一見アザミを思わせる姿形ですが、葉や茎に棘はありません(これもトウヒレン属の特徴)。チベットで観察できるもの、ブータンで観察できるもの、鋸歯の形状が少し異なります。

上の写真①がチベットで観察したもと、下の写真②がブータンで観察したものです。葉の違いが見てとれるかと思います。

観察した時の写真はフィルム写真だったので、下の写真②は2019年に弊社太田がブータンで撮影した写真を拝借しています。

綿毛の様子もはっきりわかるキレイな写真です。

 

茎の中部から上部の葉に綿毛が生え、直立して花序(かじょ)をふんわりと包みます。茎の頂部は半円上に広がり、直径5㎜程度の小さな花(花の色は少し濃い紫です)を密集して咲かせます。

 

全体を覆った綿毛は「花粉媒介を行う昆虫を誘うための装置」とも言われています。
昆虫の活動も低温によって制約を受けてしまいます。寒さをしのぐため、綿毛に覆われたセーター植物に避難するそうです。
全体を覆っているように見えますが、頂部には小さな穴が開いており、蜂などが出入りをし、花の花粉媒介を助けます。
※ある資料には、内部の温度は外気温より15度前後も温かいというものもあります。

 

シノ・ヒマラヤ地域の高地で綿毛に包まれたワタゲトウヒレンを観察すると、その真っ白な姿に目を奪われます。その真っ白な綿毛には、保温効果とともに、花粉媒介を誘導するような仕組みもあることも知っていると、また少し見方も変わるかもしれません。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)②
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デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)

ゴールデンウィークも終わり、いよいよ本格的な高山植物のシーズンが近づいてきました。皆さんはどちらの国へ花の観察にお出かけされる予定でしょうか。
近所に咲く「のだふじ」の見頃も終え、次はどのような花が観察できるのか注視しながら出勤する毎日が続いています。

 

本日紹介する花は、ブータンで観察した着生ランの1つ「デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)」です。

デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)

被子植物 双子葉類
学名:デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)
科名:ラン科(Primulaceae) 属名:セッコク属(Dendrobium )

 

中国南部、インド、マレーシアなど広く分布する着生ランですが、私がこの着生ランを観察したのは、春のブータンの峠道で花の観察を楽しんできる時でした。

 

茎が20㎝から60㎝もの長さとなり、斜上するか、垂れ下がるように伸びています。若い茎に長さ5~10㎝ほどの楕円状の葉を付け、落葉後、茎の節に1~2個の花を咲かせます。開花期は春です。
花は淡い紫色の色合いで、直径は3~5㎝ほど。唇弁(しんべん)は白く(クリーム色)ラッパ状に丸くなり、よく観察すると唇弁の先が細裂し、表面には軟毛があるのが判ります。萼片と側花弁は白から淡い桃色になり、紫の筋紋や斑紋が入ります。

 

1つ1つの花をじっくり観察しても印象的な着生ランですが、緑あふれる森林で花の観察を楽しんでいると、垂れ下がる茎に「しだれ桜」のようにたくさんの花を付けるデンドロビウム・アフィルムを観察することもできます。
開花期に葉がないことが(落葉後に花を咲かせます)、印象深い色合いを際立たせているのかもしれません。

 

ブータンなど、アジアの低山帯では、様々な着生ランを観察することができますが、種類を問わずラン科の花を見つけると心が踊ります。
「世界の各地へ着生ランを求める旅」、いつしか実現させたいものです。
またいつか、別の種類の着生ランも紹介させていただきます。

樹木に垂れ下がるデンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)
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ホテイアツモリソウ(Cypripedium macranthum var. hotei-atsumorianum)

先日、大阪城公園にて花見へ行ってきました。見頃の時期、さらには週末だったこともあり、人の多さに圧倒されてしまいましたが、キレイな桜とともに桃園では数種類の桃の観察も楽しむことができました。

 

本日ご紹介するのは、花の姿、形状が非常に見栄えが良く、地域変異のバリエーションが多いアツモリソウの一種である「ホテイアツモリソウ(Cypripedium macranthum var. hotei-atsumorianum)」です。
日本では「レブンアツモリソウ(礼文敦盛草 C. marcanthos var. rebunense)」が圧倒的な知名度ですが、ホテイアツモリソウは、花全体の色合いがとても美しく、観察を続けて行く中で、どんどん心が奪われていくアツモリソウです。

ホテイアツモリソウ:布袋敦盛草

被子植物 単子葉類
学名:Cypripedium macranthos var. hotei-atsumorianum
和名:ホテイアツモリソウ(布袋敦盛草)
科名:ラン科(Orchidaceae) 属名:アツモリソウ属(Cypripedium)

 

アツモリソウは、漢字では「敦盛草」と書きます。この漢字名の由来は、袋状の唇弁(しんべん)の部分が、平敦盛が背負った母衣に見立てて名付けられました。

 

アツモリソウの中でも日本が世界に誇れるホテイアツモリソウは、本州中部(長野:釜無、大鹿、経ヶ岳、霧ヶ峰、戸隠、安房、山梨:櫛形、八ヶ岳、新潟、岩手)や北海道に分布しており、海外では中国やロシアに分布しています。
※上の写真は、ロシアのサハリン南部で観察したものです。
盗掘・乱獲のために、既に絶滅してしまっている地域も多く、日本では1997年にレブンアツモリソウに相次いで特定国内希少野生動植物指定を受けました。

 

草丈は20~50cm、花は袋状で、茎の頂上に通常1つ、まれに2つの花つけこともあるそうです。径は6~10cm、幅の広い楕円形(時に円形に近いものがある)の葉を4~5枚互生(1つの節には1枚の葉しかつかない)し、アツモリソウに比べて全体に大きい印象を受けます。
色合いも、アツモリソウより濃く、桃色から紅色、黒ずんだ暗濃紅色の花と非常に多くの地域・個体バリエーションがあります。

 

サハリン南部で見つけたホテイアツモリソウの群生地。お客様とともに夢中になって観察したことを今でも覚えています。
日本でも観察できるアツモリソウですが、サハリンの地で観察するホテイアツモリソウも、また格別の美しさでした。
是非、ホテイアツモリソウを求めてサハリンの地へ。

ホテイアツモリソウ:布袋敦盛草

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花のサハリン紀行