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クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)

昨日まで「たっぷり小笠原6日間」のツアーへ同行させていただいており、小笠原諸島の海でイルカにも出会え、お客様とともに童心に戻ったように楽しませていただきました。また、小笠原諸島特有の植生も楽しむことができ、小笠原の植生については、追ってご紹介させていただきます。

 

本日は形状がユニークな「クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)」をご紹介します。

 

クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)

被子植物 単子葉類
学名:Paris verticillata
和名:車葉衝羽根草
科名:シュロソウ科(Melanthiaceae)
属名:ツクバネソウ属(Paris)

 

日本では、北海道、本州、四国、九州と全国に分布し、山地帯から亜高山帯の林内に生息します。
私が初めてクルマバツクバネソウを観察したのは尾瀬ヶ原から尾瀬沼へ抜けるフラワートレッキングを楽しんでいた時で、この花を紹介された際にはその形状に驚いたことを覚えています。
日本以外では、朝鮮半島、中国、千島列島、樺太(サハリン)に分布します。

 

草丈は20~40㎝で直立、茎頂に6~8枚の楕円形状の葉を輪生し、長さは5~15㎝ほどです。
茎頂から花柄(花序などを支えるための茎)を伸ばし、直径5~7㎝で黄緑色の花を咲かせます。

 

この花の形状、見た目に「どこが花?」というのが難しい部分です。

 

黄緑色の花弁のように見える部分は「外花被片」と呼ばれ、いわゆる萼片です。長さは3~4㎝ほどで枚数は4枚です。
その外花被片の間から細く垂れ下がる部分が「内花被片」で花弁となる部分。こちらも4枚あり、黄色を帯びています(写真では外花被片と同じく緑色でした)。

 

クルマバツクバネソウを特徴づける中央に細長く上向きに伸びた部分は「雄しべ」で長さは5~8㎜で本数は8~10本です。
雄しべの黄色い部分が「葯(花粉を入れる袋状の部分)」であり、葯の先端には「葯隔(やくかく:花粉塊を隔てる壁、二分する葯の接合部)」が長く伸びています。
雄しべの中央には黒色の「雌しべ」があり、花柱が4つに分かれている(4裂)のが特徴です。

 

クルマバツクバネソウの名は、葉が車輪のように輪生する姿から「車葉」、花の形状が羽子板遊びの羽根「衝羽根(つくばね)」に似ていることが由来とのことです。

 

クルマバツクバネソウに似た「ツクバネソウ(Paris tetraphylla)」との違いについて、下記のとおり非常に判りやすくまとめてくれていた資料がありましたので、参考にさせていただきました。
●ツクバネソウの葉は4枚(たまに5枚~6枚)、クルマバツクバネソウは6~8枚
●クルマバツクバネソウは葯隔(やくかく)が突き抜ける
●ツクバネソウは花弁が無い、クルマバツクバネソウは糸状の花弁が4個
●ツクバネソウの子房(雌しべの基部)は緑色、クルマバツクバネソウの子房は黒色
●ツクバネソウの葉は長楕円形、クルマバツクバネソウは倒披針形

 

見た目に目立たず、パッと見ただけでは花弁の落ちて雄しべだけが残っているような形状のため、フラワーハイキングなどをしていると見落としがちのクルマバツクバネソウですが、私も尾瀬で初めて観察した際には、その形状をゆっくり説明してもらいましたが、そのユニークな形状を細かく説明してもらううちに、いつの間にか心を奪われてしまった花でした。

 

クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)
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ニシノハマカンゾウ(西の浜萱草:Hemerocallis fulva var. aurantiaca)

前回に引き続き、「甑島列島探訪と噴煙たなびく」で観察した甑島の花、ニシノハマカンゾウ(西の浜萱草:Hemerocallis fulva var. aurantiaca)をご紹介します。

 

ニシノハマカンゾウ(西の浜萱草:Hemerocallis fulva var. aurantiaca)

 

被子植物 単子葉類
学名:Hemerocallis fulva var. aurantiaca
科名:ユリ科 (Liliaceae)
属名:ワスレナグサ属(Myosotis)

 

先日ご紹介したカノコユリ(鹿の子百合:Lilium speciosum)と同じくユリ科の花ですが、ワスレナグサ属に属し、ハマカンゾウの亜種とされています。
九州西部に分布し、今回は鹿児島県・下甑島の夜萩円山(よはぎまるやま)公園で群生を観察することができました。

 

草丈は70~80㎝、主に海岸線に群生し、葉は線状で60~70㎝、幅は1~1.5㎝と細長い形状をしています。非常に色濃い緑色の葉は少し光沢があり、触れてみると少々厚みを感じるほどでした。

 

花は色鮮やかな山吹色が印象的な色合いをし、ユリ科の特徴である3枚の花弁と3枚の萼片に分かれています。カノコユリほど幅の違いは感じませんでしたが、 外側の萼片(外花被)はやや幅が狭く、内側の3枚(内花被)の幅はやや広くなっています。
カノコユリのように花弁と萼片は先端で反り返ることはなく、カンソウの花らしくラッパ状で上向きに花を咲かせます。
花は朝に花開き、夕方にはしぼんでしまう一日花とのことでした。

 

ニシノハマカンゾウもレッドリストに登録されており、長崎県のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ 類(絶滅の可能性が増大している)に指定されているという資料もありました。
鹿児島・甑島では、6月下旬~7月下旬に山吹色のニシノハマカンゾウが、7月上旬~8月中旬にピンク色のカノコユリが花咲くシーズンです。今回は同じ場所に2つの花が群生するのは観察することができませんでしたが、甑島の海の風景を見ながら緑鮮やかな草地に咲くカノコユリとニシノハマカンゾウが同時に群生する風景を一度は観察してみたいものです。
それぞれが群生するのを観察できたので、贅沢かもしれませんが・・・。

 

ニシノハマカンゾウの群生を楽しむ
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カノコユリ(鹿の子百合:Lilium speciosum)

先日「甑島列島探訪と噴煙たなびく桜島」へ同行させていただきました。
コロナウイルスの影響により長らくツアーが実施できず、久々のツアー添乗でしたが、お客様とともに感染症対策に十分気を付けながら、各所での観光を楽しませていただき、甑島(上甑島、下甑島)ではカノコユリが満開を迎えており、各所で観察を楽しむことができました。

 

本日は甑島で堪能したカノコユリ(鹿の子百合:Lilium speciosum)をご紹介します。

 

カノコユリ(鹿の子百合:Lilium speciosum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Lilium speciosum
別名:ドヨウユリ(土用百合)、タナバタユリ(七夕百合)
科名:ユリ科(Liliaceae)
属名:ユリ属(Lilium)

 

カノコユリは四国南部(愛媛県や徳島県の山間部)や九州(薩摩半島から長崎県沿岸)などで見られ、今回訪れた鹿児島県薩摩川内市の甑島が日本唯一の自生地と言われています(もっとも自生密度が高いという表現をした資料もあります)。
また、海外では台湾北部、中国・江西省に自生し、タイワンカノコユリと呼ばれています。タイワンカノコユリは花は白く、赤からオレンジ色の斑点が入るそうです。

 

カノコユリは漢字で「鹿の子百合」と書きます。名の由来は紅色(またはピンク色)の斑点模様が鹿の背の斑(まだら)模様に似ていることから名付けられました。
ある資料では絞り染めの一種である「鹿の子絞り(かのこしぼり)」の模様に似ていることから名付けられたとされていました。

 

草丈は50㎝から大きいもので150㎝ほどまで成長します。
葉は線形で10~20㎝ほどの長さ、葉に触れてみると少し硬さを感じ、光沢も少し見られます。
花期は7月~8月。直立したカノコユリは茎先で枝分かれをし、数個の花をつけ、花の大きさは直径で10㎝ほどで、大半は下向きに咲きます。

 

花弁の縁が白く、中央部に向けて徐々にピンク色となり、個体によってはより濃いピンク色のものもあり、花全体が白花のものもあります。
花弁それぞれにカノコユリの名の由来どおり、花弁より濃紅色の鹿の背のような斑模様がついており、実際に観察するとこの色合いが何とも言えない美しさです。
カノコユリを調べていると、赤みの強い球根ほど色の濃い花を咲かせる傾向があるようです。

 

写真を見ると「花弁が6枚」と思いますが、実は違います。
これはユリの花の構造の共通点ですが、実は3枚の花弁と3枚の萼片に分かれているのです。
外側の萼片はやや幅が狭く外花被と呼ばれ、内側の3枚は幅がやや広く内花被とよばれています。

花弁、萼片とも外側に反り返った形状ですが、このように丸まっている姿が手毬のように見えることから「手毬型」と表記されている資料もありました。

 

花弁(内花被)と萼片(外花被)それぞれから雄しべが伸び、計6本つけており、雌しべが1本。上の写真でも判りますが、雌しべは先端の柱頭(粘液を分泌して花粉を受ける部分)が丸く、雄しべは葯(花粉を入れる袋)が細長いという点で見分けることができます。

 

江戸時代にフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトがカノコユリとテッポウユリの球根を日本から持ち帰り、ヨーロッパでも知られるようになり、カサブランカなどの品種で有名な「オリエンタル・ハイブリッド種」が生まれたそうです。
また、明治6年(1873)のウィーン万国博覧会で日本の自生ユリの数々が持ち込まれて紹介されるや、熱狂的なブームが起こったそうです。

 

先日甑島でカノコユリの群生を観察したので信じられませんが、現在カノコユリは環境省のレッドリストに登録されており、絶滅が危惧されているそうです。
心癒される美しい色合いのカノコユリの学名の「speciosum」は「美しい」という意味を持ちます。「美しいユリ」のカノコユリ、いつまでも美しく可憐に咲き続けてほしいものです。

 

白花のカノコユリも観察できました
カノコユリ(鹿の子百合:Lilium speciosum)

 

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ハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata)

私は7月22日より「甑島列島探訪と噴煙たなびく桜島5日間」のツアーへ同行させていただき、現在上甑島から下甑島へ向かっているところです。

 

本日も日本の花の1つ、白山を冠した18種の植物のうちの1つである「ハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata)」をご紹介します。

 

ハクサンチドリ:白山千鳥:ラン科)

被子植物 単子葉類
学名:Dactylorhiza aristata
和名:ハクサンチドリ(白山千鳥) 別名:シラネチドリ
科名:ラン科(Orchidaceae)
属名:ハクサンチドリ属(Dactylorhiza)

 

ハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata:白山千鳥)は、本州の中部以北から北海道にかけて、亜高山帯から高山帯の草地に自生し、本州では高山植物として知られているが、北海道内では山岳地帯から海岸近くまで幅広く分布しています。海外でも北太平洋地域、アラスカまで分布します。
私も白馬岳の登山の際に観察し、北海道・礼文島で群生を観察したのを覚えています。上の写真はサハリンにて観察したものです。

 

草丈は10~40㎝ほどで直立し、葉は細長の楕円形(広線形)から披針形をし、長さ10~15㎝ほどの葉が数枚互生(ごせい:茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)します。

 

花は直立した茎の真ん中から頂部にかけて、2㎝ほどの小さな花を密集して総状につけます。
色合いは鮮やかな紫色や暗赤紫色など変異が多く、中には白い花のものも見られます。
唇弁(しんべん:下側にある花弁が他面のより大きく、花を下から受けるように広がる形になる花弁のこと)はくさび形で先端が3裂し、中裂片の先端は鋭く尖った形状が特徴です。
萼片や花弁も先端が鋭くとがっており、萼片(側萼片)が左右に広がり、まるで鳥が翼を広げているように見えることから「チドリ」の名がついたとも言われています。
花弁と萼片が左右から蕊柱(ずいちゅう:雄蕊と雌蕊が合体したもの)を包み込むような形状をしていますが、蕊柱は小さすぎて目立たないので、虫眼鏡などで観察する必要があります。

 

ハクサンチドリは形状と色には変異が多く、有名なものは下記の2種です。
1.ウズラバハクサンチドリ(鶉葉白山千鳥:Dactylorhiza aristata f. punctata)
・葉に暗紫色の斑点、ウズラの卵に似た模様の葉を持つ。

2.シロバナハクサンチドリ(白花白山千鳥:Dactylorhiza aristata f. albiflora)
・その名の通り、白い花を咲かせる(下写真)。

 

日本ではラン科の高山植物の中で一番よく見かけると言われるハクサンチドリ。特に北海道では驚く量の群生が見られることもあります(資料によっては「雑草のごとく生えている」と)。
色合いや特徴ある形状の観察とともに、周囲を見渡してシロバナハクサンチドリやウズラバハクサンチドリも探してみてはいかがでしょうか。

 

シロバナハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata f. albiflora)

 

 

<レブンシオガマが観察できるツアー>
花の季節に訪れる北海道最北の旅~利尻島・礼文島から宗谷岬、知床半島へ~
上鶴篤史氏同行シリーズ
礼文島「愛とロマンの8時間コース」と利尻島、サロベツ、宗谷丘陵ネイチャーハイキング
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夏の北海道を撮る 大雪山と富良野・美瑛&道東の湖めぐり
北海道大自然をぐるっとめぐる旅

067

コバイケイソウ(Veratrum stamineum)

京都市右京区の「蓮の寺」として有名な法金剛院で蓮の花をめでる観蓮会(かんれんえ)が始まったというニュースがありました。
暦の上、7月12日から七十二候(しちじゅうにこう:二十四節気(にじゅうしせっき)は半月毎の季節の変化を示していますが、これをさらに約5日おきに分けて気象の動きや動植物の変化を知らせるのが七十二候)では「蓮始開(はすはじめてひらく)」の期間となり、7月中旬から8月中旬に蓮の花は見頃を迎えます。
蓮の花の命は4~5日と短いですが、泥の中から美しく成長するその姿に、昔の人々は極楽浄土を見たとされ、仏教では慈悲の象徴とされています。
法金剛院の観蓮会は8月2日まで開かれてようなので、是非訪れてみたいものです。

 

蓮の花のニュースをご紹介しましたが・・・本日は蓮の花のご紹介ではなく、前回に引き続き、本日日本の花である「コバイケイソウ(Veratrum stamineum)」をご紹介します。本日の写真も弊社東京本社に在籍する島田が霧ヶ峰で撮影した写真を拝借させてもらいました。

 

コバイケイソウ(小梅蕙草:Veratrum stamineum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Veratrum stamineum
和名:小梅蕙草
科名:シュロソウ科(Melanthiaceae)またはメランチウム科
属名:シュロソウ属(Veratrum)

 

コバイケイソウは、ユリ科(Liliaceae)と記載しているもの、シュロソウ科(Melanthiaceae)と記載されているものと様々です。
現在、コバイケイソウはユリ目シュロソウ科(またはメランチウム科)シュロソウ属に分類される多年草です。以前はユリ目ユリ科(Liliaceae)に含められていましたが、新しい植物分類体系でシュロソウ科と分類されるようになりました。

 

本州の中部地方以北から北海道に分布し、本州では山地から亜高山帯の草地や湿地に生えるが、北海道では低地でも観察することができる日本固有の多年草です。

 

草丈は直立で50㎝から100㎝に及びます。
葉は互生(茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)し、広楕円形で長さが10~20㎝ほどの大型の葉を付けます。大型の葉に直接触れると固さを感じ、葉脈は平行脈ではっきりとしているのが印象的です。基部は大型の葉が茎を包むように生えています。

 

花期は6~8月、茎の上部に白く可憐な花が密集して円錐花序をつくります。
花の直径は1㎝ほどと小さく、花弁や萼などの花被片は6枚あり、中央の花穂には両性花(一つの花に雄しべと雌しべの両方が備わっている花:サクラ・アサガオなど)がつき、脇に枝分かれした花穂には雄花(おしべのみをもつ花)がつくそうです。
コバイケイソウの群生を初めて観察した時は、毎年同じ株が花を咲かせるかと思っていましたが、同じ株が毎年花を咲かせるのではなく、多数の花が揃って咲くのは数年に一度しかないそうです。

 

コバイケイソウは有毒です。全草に毒性をもち、誤って食べてしまうと嘔吐やけいれんを引き起こし、重篤な場合は死に至ることもあります。若芽が山菜のオオバギボウシなどに似ていることから、誤食による食中毒が毎年発生しているそうです。

 

名前の由来は、花が梅に似ている点、さらに葉が蕙蘭(けいらん:ラン科の紫蘭の古名)に似ていることから「梅蕙草(バイケイソウ)」と呼ばれるようになり、バイケイソウより小型な種ということでコバイケイソウと呼ばれるようになりました。

 

コバイケイソウは、私にとっては非常に思い出深い花の1つです。
私がまだ20代の頃(国内添乗員だった頃)、中央アルプスの木曽駒ケ岳へ訪れ、ロープウェイに乗って標高2,612mの千畳敷駅に到着したら、花畑一面に高山植物が咲き揃い、その中でコバイケイソウが群生していました。
現地ガイドさんが「今年はコバイケイソウの当たり年」とおっしゃっており、お客様と共に夢中になって観察したのを今でもはっきりと覚えています。
あの時の千畳敷カールでのコバイケイソウの群生は、今思えば私が高山植物に興味を持つきっかけになった風景の1つかもしれません。
※唯一の後悔は、当時はカメラ撮影に興味がなかったことです。

 

コバイケイソウの群生
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エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)

非常事態宣言が続く中でのゴールデンウィークが終了しましたが、皆さんはどのようにゴールデンウィークを過ごされたのでしょうか。
私は数日に1回、自宅前のスーパーマーケットへの買い物以外は外出をせず、大半を自宅で過ごす中で「ぬか床づくり」をはじめました。また、ゴールデンウィーク最終日に買い物へ出かけた際、自宅マンションのつつじが満開となっており、非常事態宣言の中、心癒される風景でした。

 

本日は日本の大雪山系やロシアのサハリン(旧樺太)で観察した「エゾクロユリ(蝦夷黒百合)」をご紹介します。

 

エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)

 

被子植物 単子葉類
学名:クロユリ(Fritillaria camschatcensis)
和名:エゾクロユリ(蝦夷黒百合)
英名:Kamchatka lily、Chocolate lily 他
科名:ユリ科(Liliaceae) 属名:バイモ属(Fritillaria)

 

クロユリ(Fritillaria camschatcensis)は、その姿と花の色からクロユリと名付けられていますが、ユリ科のユリ属ではなく、ユリ科のバイモ属の高山植物です。
日本の北海道、東北地方の月山、飯豊山、中部地方に分布し、西限は北陸地方の白山とされ、石川県では「郷土の花」に指定されています。
海外では、千島列島、ロシアのサハリン、カムチャッカ半島、北アメリカ北西部に分布し、学名の「camschatcensis」は生育地の「カムチャッカ」を意味します。

 

広義のクロユリはミヤマクロユリ(Fritillaria camtschatcensis var.alpina)とエゾクロユリ(Fritillaria camschatcensis)を含めたものとされ、ミヤマクロユリは亜高山帯~高山帯に自生し、エゾクロユリは低地、海岸近くの林の下でも生育、観察できることもあります。
※掲載した写真はサハリンの海岸線近くの藪の中で観察したエゾクロユリです

調べてみると、エゾクロユリとミヤマクロユリは草丈の違いもありますが、染色体数に違いがあるようです。ミヤマクロユリの染色体数は2 対24本(2倍体というそうです)、エゾクロユリは3 対36本(3 倍体)とのことです。

 

地下にある鱗茎(りんけい:球根の一種)は多数の鱗片からなり、茎は直立で10~50㎝の高さになります。葉は長さ3~10㎝の披針形をし、数段にわたり輪生(りんせい:茎の一節に葉が3枚以上つくこと)しています。

 

花期は6~8月で、花は鐘状で茎先にやや下向きに咲き、長さが約3㎝、6枚の黒褐色の花被片をつけ、表面には細かい斑点と筋模様が確認できる花を咲かせます。
クロユリの花は独特の臭いがあります。クロユリの花粉を運ぶのは大部分がハエと言われており、この臭いがハエを呼び寄せているとも言われています。
花が終わると徐々に上を向くように変化し、実が膨らみ羽をもった種子をたくさんつけますが、発芽率は良くなく、繁殖の大半は栄養繁殖と呼ばれる地下の鱗茎が分裂して数を増やしています。

 

私が初めてクロユリを観察したのが「北海道の大雪山縦走登山」をしているときでした。その後、日本では北陸地方の白山でも観察しました。
アイヌ語ではクロユリは「アンラコル」と呼ばれ、アンが「黒」、ラが「葉」、コルが「持つ」という意味で、アイヌ民族はクロユリの鱗茎を干したものを食用にしてきたそうです。

 

北海道の大雪山国立公園は高山植物の宝庫です。
緊急事態宣言の中、外出や旅行を自粛する中でゴールデンウィークは我慢して生活をしてきました。高山植物の開花が始まる頃には、安心して旅行を楽しめるようになることを願うばかりです。

その願いを込めて弊社でも「花の北海道フラワーハイキング」を発表しました。
大雪山国立公園へクロユリやチングルマ、高山植物の女王コマクサを求めて、北海道へ訪れてみませんか?

 

エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)
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ブロッキニア(Brocchinia)

先日、嫁さんと買い物へ行った際、近所の公園で花咲く「のだふじ」を観賞しました。
外出自粛と言われている時期でしたが、淡い藤色や鮮やかな白色ののだふじの花を観て、少し心が癒された瞬間でした。1日でも早く、気兼ねなく散歩を楽しめる日に戻ることを願うばかりです。

 

前回に引き続き、ギアナ高地の植生の1つ「ブロッキニア(Brocchinia)」をご紹介します。

 

ブロッキニア(Brocchinia)

 

被子植物 単子葉類
学名:
・ブロッキニア・レズクタ (Brocchinia reducta)
・ブロッキニア・ヘクチオイデス(Brocchinia hectioides)
科名:パイナップル科(Bromeliaceae) 属名:ブロッキニア属(Brocchinia)

 

ブロッキニア(Brocchinia)は、ギアナ高地に自生する食虫植物の1つです。
あまり聞き慣れない「パイナップル科(Bromeliaceae)」の植物で、葉腋に水を溜める特徴を持ち、その中でも上記で記載したブロッキニア・レズクタ(Brocchinia reducta)とブロッキニア・ヘクチオイデス(Brocchinia hectioides)の2 種のみが、食虫習慣があるとして、1984 年に食虫植物の仲間入りをしたそうです。

 

葉は上に向かって真っすぐに伸び、形状は長い剣状、断面はU字型にカーブしているため、葉が重なり合って筒状になっています。高さは50㎝から1mにも及ぶものもあります。

 

筒状のブロッキニアを真上から撮影

 

数枚の葉が重なり合い、その中心に水を溜め、その水は甘い香りを放ち虫を誘引するようです。葉の内側はクチクラ質(植物においては表皮の外側を覆う透明な膜で蝋を主成分とするもの)のため、中に入りこんだ虫が逃げられないような構造になっています。
黄緑色の葉の色合いが、広いグラン・サバンナでは非常に目立ち、虫をたくさん捕らえられているとも言われています。

 

溜まった水は強い酸性であり、その水で昆虫を殺し、液中に共生しているバクテリクテリアが捕まった昆虫を分解し、それを栄養源にしているようです。ギアナ高地では、ブロッキニアを分解して中に溜った昆虫(大半が蟻でした)も観察し、その量に驚かされました。

 

ブロッキニアを分解すると、中には蟻など昆虫の死骸がたくさん確認できました

 

筒の内側には、消化液を分泌する腺毛(無柄腺)があり、消化液は分泌せず、消化酵素の分泌も確認されていないと認識していたのですが、このブログを作成している中で色々と調べていると、ブロッキニア・レズクタ(Br.reducta)には「ホスファターゼ」という消化酵素を分泌していることが最近の研究で報告されているそうです。まだまだ勉強の余地があるようです。

 

私はこれまで幾度となくギアナ高地へ添乗させていただきましたが、2018年11月以来訪れていません。ベネズエラの情勢が安定し、1日でも早くギアナ高地の絶景と植生を楽しめるようになってほしいものです。

 

ブロッキニアの群生の向こうにはロライマ山
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ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)

先日、天気予報サイトにて「のだふじ前線」のニュースが掲載されていました。
私の近所ののだふじも開花が始まり、淡い紫の藤の花が何とも言えない美しさです。今年の花見は諦めないといけない状況なのが残念です。
藤の花は春の終わりから夏の初めにかけて咲きます。新緑のシーズンを迎えるころ、気兼ねなく外出を、散歩を楽しめるよう、1日でも早い終息を願うばかりです。
※天気サイト「tenki.jp」は日本各地の花の開花ニュースや興味深い花の話なども掲載されており、オススメです。

 

本日は南米の中でも「秘境の代名詞」ともいえる場所であり、独特の植生が観察できるギアナ高地の花の1つ「ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)」をご紹介します。

 

ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)

被子植物 単子葉類
学名:ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)
科名:ラパテア科(Rapateaceae) 属名:ステゴレピス属(Stegolepis )

 

ギアナ高地には約4,000種の植物が分布し、うち75%が固有種とも言われています。
有名なガラパゴス諸島の固有種が53%とも言われ、いかにギアナ高地が独自の進化を遂げてきたのかが解ります。

 

ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)は、ラパテア科の一種。
ラパテア科(Rapateaceae)は、単子葉類の1つであるイネ目(Poales)に属します。南米と西アフリカの熱帯地帯に約100種が分布し、西アフリカの一種を除き、南米に自生し、多くの属はギアナ高地の固有属です。
ステゴレピス・ガイアネンシスも「ガイアネンシス(guianensis)」の名前からも解るとおり、ギアナ高地の固有種です。

 

ステゴレピス・ガイアネンシスの多くは湿地帯や岩場の隙間などに生息し、高さは60㎝~1mほどで、大きいものになると2m近くまで成長するものもあるそうです。

葉は長楕円形で少し肉厚、葉は根元で重なり合い、茎を包む葉鞘(ようしょう:葉の基部が鞘状になり茎を包む部分)になる葉が多数あり、長いもので1m以上のものもあります。

花茎の頂部に頭状に集まった花序をつけ,花序は2枚の発達した苞葉(ほうよう:蕾を包むように葉が変形した部分)に包まれています。

花は1~2㎝と小型で,3枚の萼と3枚の花弁を有しています。

 

2018年11月、ブラジルとの国境に位置するサンタ・クルスとエンジェル・フォールとの間に位置するチマンタ山塊の山上で植生の観察を楽しむツアーに同行させていただいた際、今回掲載した写真を撮影しました。
手元には苞葉に包まれた状態の写真しかなく、当日には開花したものも観察したのですが・・・撮影できる状況ではなかったので、開花したステゴレピス・ガイアネンシスの写真を掲載できないのが残念です。
現在、ベネズエラの情勢悪化の影響でツアー実施ができない状況ですが、ツアーが再開され、ステゴレピス・ガイアネンシスの花の撮影ができた際、改めてご紹介したいと思います。

 

ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)②
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クロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)

遅くなりましたが、2020年最初の投稿となります。

2020年最初の花は、1月に観察したパタゴニアのランの花の1つ「クロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)」をご紹介します。

クロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)

被子植物 単子葉類
学名:クロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)
科名:ラン科(Orchidaceae) 属名:クロラエア属(Chloraea)

 

昨年に引き続き「パタゴニアを撮る」へ同行させていただきました。
ある日のパイネ国立公園での朝焼けの撮影では天候に恵まれず、道中で虹が架かり始めたので写真タイムを取っていた時でした。
パイネ国立公園の草原に数輪咲くクロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)を発見しました。

 

花弁は白地に緑色の網目模様が特徴的で、さらに花の中央に黄色く垂れ下がる花弁も特徴的な姿をしています。
草丈は30~40cm程度、花の直径は5~7㎝です。厚めの葉は触ると少し硬さを感じます。
アルゼンチン南西部、チリ中南部に自生し、パタゴニア地方でも乾いた草地やナンキョクブナの森に花を咲かせます。花期は11~1月ごろです。

 

パタゴニアにはたくさんのラン科の花が自生していますが、一見するとグロテスクな色合い・姿をしているクロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)は「世界で最も南に分布するラン科の一種」という点が注目するポイントです。

 

私も毎年パタゴニアへ訪れていますが、なかなかこのクロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)に出会う事ができず、何気なく立ち寄った写真ポイントで発見した時には思わず興奮してしまい、撮影に夢中になってしまいました。

 

今シーズンも世界各地でたくさんの花の観察を楽しみたいと思っておりますが、念願だったパタゴニアでのクロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)を観察・撮影ができ、2020年も幸先の良いスタートが切ることができました。

 

皆さんもパタゴニア・パイネ山群の素晴らしい風景と共に、パタゴニア特有のランの花をもとめて、是非パタゴニアへ訪れてみてください。

パイネ山群の朝焼け

 

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グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)

本日もニュージーランドの花を1つ、変わった形をしたランの一種である「グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)」をご紹介します。

グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)

被子植物 双子葉類
学名:Pterostylis banksii
英名:グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)
マオリ名:TUTUKIWI
科名:ラン科(Orchidaceae)  属名:プテロスティリス属(Pterostylis)

 

グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)は、マオリ語で「TUTUKIWI(トゥトゥキウィ)」と呼ばれ、和名ではその形状から「頭巾ラン」などと呼ばれているランの一種です。

 

プテロスティリス属は、ニュージーランドをはじめ、オーストラリア、パプアニューギニア、ニューカレドニアなどに分布し、100種近くが確認されています。ニュージーランドでは20種ほどが確認されており、樹林帯から亜高山帯まで生育しています。
掲載した写真は、ニュージーランド南島のルートバーン・トラックのキーサミットへ向かう樹林帯の中で観察したものです。

 

グリーンフード・オーキッドは、その形状もユニークなものですが、受粉方法もユニークなのが特徴です。何と、動く唇弁によって虫を柱頭に寄せ付けるのです。

 

主にコバエなどの小さな虫は、グリーンフード・オーキッドの香りに引き寄せられるように風下からは花に近づき、花の入口にある舌のような部分に虫が停まり、舌のような部分がバネのように虫を奥の柱頭に向けて弾き飛ばします。

その後、花弁を閉じ(現地ガイドから10~15分近く閉じると解説がありました)、その間にその虫が持ってきた花粉で受粉します。
その後、花が開き虫が逃げ出す際にはグリーンフード・オーキッドの花粉を付け、出ていくという仕組みです。

 

開花時期は11~2月、主に樹林帯の湿った草地やコケが覆う場所などに生育するため、花の色合いからすぐに目に飛び込んでくる花ではありませんが、草丈10~15㎝のグリーンフード・オーキッドは、ユニークな形状であるため、すぐに気付かれる方もいらっしゃるかもしれません。
ニュージーランドの樹林帯で観察の機会がありましたら、是非そのユニークな形状もゆっくりと観察していただきたいラン科の花の1つです。