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デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)

ここ数日温かく天気の良い日が続いており、近所のあちらこちらでツツジが咲き始めています。私の自宅近くの蕾も大きくなり、開花も間もなくという状況です。
また、兵庫県丹波篠山市では大輪のシャクナゲ(ツツジ科)が咲き始めているというネットニュースを観ました。例年「にしきシャクナゲまつり」が行われているそうですが、今年はコロナウイルス騒動のため中止になってしまったそうです。残念なニュースですが、例年通りキレイなシャクナゲが咲いているというニュースは外出自粛が続く中、ほっこりとするニュースでした。

 

本日も前回に引き続き、インド・ザンスカール地方で観察した花の1つ「デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)」をご紹介します。

 

デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)

被子植物 双子葉類
学名:デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:デルフィニウム属またはオオヒエンソウ属(Delphinium)

 

属名の「デルフィニウム(Delphinium)」は、ギリシャ語でイルカを意味する「delphis」を語源とし、花の蕾の形がイルカに似ていることに由来するとされています。また、同じ属名で「オオヒエンソウ属」と紹介される図鑑などもありますが、これは和名の「大飛燕草(オオヒエンソウ)」からきており、花の形状が燕の飛来する形に似ていることが由来するとされています。

 

デルフィニウム属は、世界に約350種があり、北半球の温帯~寒帯に広く分布し、少数がアフリカの高地に分布します。英名ではbee larkspur 、larkspurと呼ばれています。

 

デルフィニウム・カシメリアヌムは、パキスタンからヒマラヤ西部、インド・ガルワール地方に分布し、乾燥した高山帯の岩礫地や斜面の草地に生え、花期は7~9月です。

花茎の高さは10~50cm、上部に軟毛が生え、葉の幅は3~8cm、葉の表裏にも太い毛がまばらに生えているのが確認できます。

花は散房状(下の方の花柄は長く、上の方は短い花がほぼ一面に並んで咲く状態)につき、花柄(先端に花を付ける柄の部分)は長さ4~7cm、花弁は暗紫色で、まばらに軟毛が生える淡い紫色の萼片(がくへん)で覆われています。

 

私がデルフィニウム・カシメリアヌム (Delphinium cashmerianum) を観察したのがインドのザンスカール地方で、標高5,000mのシンギ・ラ峠、さらには標高4,430mのキュパ・ラ峠の2つを1日で越えるトレッキングの道中でした。
最初の峠であるシンギ・ラ峠を目指す中、斜面に咲くデルフィニウム・カシメリアヌムやトラノオの一種の花が一面に咲き誇り、周囲の岩山、青空の色合いと相まって一服の清涼剤、活力になったのを覚えています。
岩山とデルフィニウム・カシメリアヌムの花を入れる構図の撮影は、標高4,000mを越える礫地で腹這い状態での撮影、まさに命がけの撮影でした。ただ、命懸けでも撮影したいと思えるほど可憐な花でした。

命懸けで撮影した「デルフィニュウム・カシメリアヌム」
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サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)

最近、我が家の周辺には白いアヤメがたくさん咲いており、調べてみると「シャガ(Iris japonica)」という種類のアヤメでした。
アヤメの周辺のツツジには蕾がつき始めていることも確認でき、私が住んでいる大阪市福島区が毎月発行している広報誌では区の花「のだふじ」の季節が近づいていることを知らせる記事が載っていました。
ここ最近は外出を控えなければいけない状況でありますが、季節を知らせる花は例年と変わらず咲いてくれることの喜びを感じながら、一日でも早い終息し、気兼ねなく花見ができる日が訪れることを願うばかりです。

 

本日はインド北部・ザンスカール地方で観察した「サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)」をご紹介します。

サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)

被子植物 双子葉類
学名:Saussurea gnaphalodes
科名:キク科(Asteraceae) 属名:トウヒレン属(Saussurea)

 

キク科のアザミ亜科の1つであるトウヒレン属は中国からヒマラヤ地域、ロシアのシベリアにかけて多くの種が分布し、日本には60数種が分布、北半球に約400種が分布します。

 

サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)は中央アジア周辺からヒマラヤ地域、チベット、中国西部に生息し、高山帯上部の乾いた風にさらされた礫地に生え、非常に強い根が地下に横向きに伸びています。

花茎は高さが2~5cmと小型であり、葉は少し肉厚の長円形で、長さが1.5~3cm、全体に綿毛が生え、ロゼット状に広がっています。

茎頂に頭花が密集し、全体に直径2~3cmの半球状の花序を作ります。頭花は直径5~8mm、花期は7~8月です。凍結しやすい高地の礫地の斜面に生え、花期に早くも羽毛上の冠毛がのびて空気をはらみ、子房を保護します。

 

サウスレア・グナファロデスは以前にご紹介したワタゲ・トウヒレン(Saussurea gossypiphora)と同様「セーター植物」と呼ばれる花の1つです。サウスレア・グナファロデスは茎がほとんどない小型の植物で、葉や頭花に綿毛が密生していても綿毛が花序や花茎を包むことはありません。

 

葉も綿毛で覆われて頭花も淡い紫色のため、礫地に目立たずひっそりと咲いているイメージのサウスレア・グナファロデスですが、小さな頭花が密集している花を1つ1つゆっくりと観察していると、徐々に心惹かれていく不思議な花の1つです。

サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)②
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イヌラ・リゾケファラ(Inula rhizocephala)

週末は大阪城公園へ花見へ出掛ける予定にしていましたが、朝から雨模様だったため花見は断念し、近所へ買い物の帰りに公園に咲くサクラを少し楽しんだ程度でした。自宅に咲く旭山桜を見ながら、のんびりと」した週末でした。

 

本日も前回に引き続き、中央アジアのキルギスで観察したキク科の「イヌラ・リゾケファラ(Inula rhizocephala)」をご紹介します。

 

イヌラ・リゾケファラ(Inula rhizocephala)

被子植物 双子葉類
学名:イヌラ・リゾケファラ(Inula rhizocephala)
科名:キク科(Asteraceae) 属名:オグルマ属(Inula)

 

イヌラ・リゾケファラ(Inula rhizocephala)はキク科のオグルマ属に属し、中央アジア周辺からインドとパキスタンの国境周辺のカシミール地方に分布します。

 

乾燥地帯の草地などに自生し、茎はなく、葉はロゼット状(地表に葉を平らに並べた植物の状態)に地表に広がっています。葉の形状は細長い倒披針形(とうひしんけい)で3~7cmほどの長さ、表裏に毛が生えているのが確認できます。

 

ロゼット状の葉の中央には直径1~3㎝ほどの黄色い頭花を密集して咲き、周囲に舌状花(ぜつじょうか:花弁が数枚平行について舌状になって咲く状態)が平開し、舌片の長さは0.5cmほどです。

 

イヌラ・リゾケファラを観察したのがキルギスの名峰であるレーニン峰のベースキャンプ周辺でフラワーハイキングを楽しんでいた時でした。円形に広がる葉の中央に、同じく円形に密集して咲くキクの花。形状に驚いて足を止めましたが、いつの間にか密集した花の美しさに心を奪われてしまいました。

 

現地のフラワーガイドさんの説明では、ロゼット状に葉が広がる植物は風を避けて太陽光と地面からの熱をしっかり吸収する形状であり、家畜から身を守る(食べづらい)形状であるということでした。

 

キク科の花は見分けが非常に難しいですが、世界各地には可憐に咲くキク科の花を観察することができます。珍しいキク科の花をまたいつか紹介したいと思います。

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コドノプシス・クレマティデア(Codonopsis clematidea)

先日購入した旭山桜が日に日に花の数が増えていき、嫁さんとのんびりコーヒーを飲みながら鑑賞を楽しんでいます。来週あたりには大阪城にでも花見に出掛けようと計画中です。

前回に引き続き、高山植物の宝庫である中央アジア・キルギスで観察した「コドノプシス・クレマティデア(Codonopsis clematidea)」をご紹介します。

コドノプシス・クレマティデア(Codonopsis clematidea)①

被子植物 双子葉類
学名:コドノプシス・クレマティデア(Codonopsis clematidea)
科名:キキョウ科(Campanulaceae) 属名:ツルニンジン属(Codonopsis)

 

キキョウ科・ツルニンジン属の花は日本、中国、ロシア極東、カザフスタン、インド亜大陸、イラン、インドシナ、インドネシアなどを含む東アジア、南アジア、中央アジア、東南アジアに広く分布しています。

 

コドノプシス・クレマティデア(Codonopsis clematidea)は、中央アジア周辺からインド・ヒマーチャル地方、チベット西部などの亜高山帯の草原で観察できる多年草、花期は7~9月です。

 

乾燥地帯の亜高山帯の低木疎林や灌漑された草地に多く、葉は大きく光沢が若干見られ、長さは2~3㎝ほどです。
花冠はツルニンジン属らしいふくらみのある釣鐘型で、長さは2~3㎝ほどの可愛い花を咲かせます。花茎は上部で分枝し、高さは30cmほどから60cmまでに成長するものもあります。

 

私がこのコドノプシス・クレマティデアを初めて観察したのが、キルギスでも花の谷と称されるカルカラ谷でした。それまでに同ツアー中に幾度もツルニンジン属の花を観察していたので通り過ぎそうになりましたが、足を止めて釣鐘型の花の内部を覗き込んでみると、その色合いに驚いたのを今でもハッキリと覚えています。
淡い薄紫の花弁の内側に濃い紫色の縞模様のような色合い、また雄しべの奥には鮮やかなオレンジ色が確認でき、一気に心を奪われた花でした。
ツルニンジン属の花らしく釣鐘型のため、下向きに咲く花でしたが、カルカラ谷の草地で懸命に腹ばいになって撮影したのが最初の写真です。
キルギスの青空にも生え、我ながらキレイに撮影できたと思っております。

コドノプシス・クレマティデア(Codonopsis clematidea)②
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シュマルハウセニア・ニュドランス(Schmalhausenia nidulans)

日本各地で桜の開花宣言を伝えるニュースが聞かれるようになりましたが、今年の桜の開花・満開は例年より早く、東京からスタートした桜前線でしたが、満開のトップも東京で連休明けの23日の予想だそうです。
先週末、嫁さんと出掛けた際に旭山桜という品種の桜の鉢植えの桜を購入しました。まだ花は開いていませんが、今年は我が家で花見ができるかと思うと、これからが楽しみです。
※ブログ投稿の翌日に小さな八重咲きの桜が咲きました!

 

前回に引き続き、中央アジアの花である「シュマルハウセニア・ニュドランス(Schmalhausenia nidulans)」をご紹介します。

シュマルハウセニア・ニュドランス(Schmalhausenia nidulans)

被子植物 双子葉類
学名:シュマルハウセニア・ニュドランス(Schmalhausenia nidulans)
科名:キク科(Asteraceae) 属名:シュマルハウゼニア属(Schmalhausenia)

 

シュマルハウセニア・ニュドランス(Schmalhausenia nidulans)は、一見するとアザミのように見える花ですが、キク科の顕花植物のうち、アザミ亜科(Carduoideae)のシュマルハウゼニア属(Schmalhausenia)に属する中央アジア原産の一種です。

聞きなれないシュマルハウゼニア属(Schmalhausenia)という属名は、ドイツ系ロシア人の植物学者、古植物学者のヨハネス・テオドール・シュマルハウゼン(Johannes Theodor Schmalhausen)に献名されているそうです。

 

綿毛のような毛に覆われ、基部から太い茎が直立しており、高さは約30cmにもおよびます。葉は白がかった緑色で、葉も毛に覆われています。一つ一つ葉は先細りした楕円形をしており、少し硬さを感じ、アザミらしい葉をしています。枝から棘も見られますので、観察の際は十分お気を付けください。

茎が伸び始める前のシュマルハウセニア・ニュドランス(Schmalhausenia nidulans)

頭頂部に直径2~4cmほどの淡い紫の花を咲かせ、ふんわりと膨らんだ綿毛のような頭頂部に複数(10個近く咲かせるものも観察しました)咲かせているのがとても印象的な咲き方です。開花時期は7~9月です。

現地のフラワーガイドさんの説明では「5年程生きたのち花を咲かせて枯れるが、その際に綿帽子が飛び、新たな場所で芽を出す」ということでした。

 

私がこの花を初めて観察したのはキルギスへのツアーへ同行させていただいた時でした。ソン・クル湖周辺のクルマク峠周辺を走行していた際、車道脇の緩やかな傾斜、草地に突然姿を現したシュマルハウセニア・ニュドランスを観たときは「単なるアザミかな?」と思いましたが、バスを降りて観察を始めるとその形状、花の咲かせ方など、ゆっくり観察していると、どんどんその魅力に引き込まれていったことを今でも覚えています。

 

シュマルハウセニア・ニュドランスの群生は本当に見事なものです。

7月にシュマルハウセニア・ニュドランスの花が咲き始めます。キルギスは高山植物の宝庫でその他にもたくさんの花が開花時期を迎えます。

是非シュマルハウセニア・ニュドランスの群生を求めて、キルギスへ訪れてみてください。

シュマルハウセニア・ニュドランス(Schmalhausenia nidulans)の群生

 

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プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)

引っ越しをして早一年。この時期には近所に咲くコブシの花が1つの楽しみでした。
週末に嫁さんと近所を散歩していた時、近所の学校の敷地内から歩道に乗り上げるように咲くハナモクレンの花を見つけました。
思わず足を止めて観察をしながら、新たな春の楽しみを1つ見つけたことに喜びを感じる週末でした。

 

本日は、中央アジアのキルギス共和国で観察したオキナグサの一種である「プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)」をご紹介します。

プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)

被子植物 双子葉類
学名:プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae) 属名:オキナグサ属(Pulsatilla)

 

プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)はアルタイ山脈からパミール山脈に分布し、下向きにベル状の花を咲かせます。
属名の「Pulsatilla(パルサティラ)」は、花の形から「鐘」に例えられ、ラテン語の「pulso(打つ、鳴る)」が語源と言われています。

 

多年草で直立または斜上する太い根茎を持ち、根茎から根出葉を束生させます。
茎につく葉は3枚が輪生し、若い時の葉は長い白毛で被われています。
花茎の先に1つの花をつけ、花弁状の萼片は5~12枚あり、外面に長い白毛が生えています。花弁は無く、おしべが棍棒状に変形した仮雄蕊(かゆうずい:雌雄異花植物の雌花に見られる)が蜜を分泌するそうです。
キンポウゲ科なので、花後に花柱の長い白毛がさらに伸長し、羽毛状になります。

花柱の長い白毛がさらに伸長し、羽毛状になる

オキナグサ属の花は、北半球の暖帯以北に広く分布し、約45種が知られています。日本ではオキナグサ(Pulsatilla cernua)、ツクモグサ(Pulsatilla nipponica)の2種が分布します。

 

私がプルサチラ・カンパネルラを観察したのが、キルギスの名峰レーニン峰のベースキャンプ周辺でのんびりハイキングを楽しんでいる時でした。
レーニン峰の展望を楽しむはずのハイキングでしたが、このプルサチラ・カンパネルラをはじめ、数々の高山植物が観察することができ、レーニン峰の展望はそっちのけで高山植物の観察を楽しんでいました。

 

キルギス共和国は高山植物の宝庫です。特に7月は高山植物の観察のベストシーズンです。まだ見ぬ素晴らしい高山植物を求めて、是非キルギス共和国を訪れてみてください。

プルサチラ・カンパネルラ(Pulsatilla campanella)の穂
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マタ・グアナコ(Mata Guanaco)

2020年に入り、2ヶ月続けて南米パタゴニアのツアーへ同行させていただきました。
私自身が世界各地の中で最も大好きな地域であるパタゴニアは、氷河などによる浸食で長い年月をかけて形成された素晴らしい大自然を楽しむことのできる素晴らしい場所です。

パタゴニアではクッション状に生息する灌木のことを「マタ(Mata)」と呼び、その中の一種「マタ・グアナコ(Mata Guanaco)」を本日はご紹介します。

 

クッション状で自生するマタ・グアナコ(Mata Guanaco)

被子植物 双子葉類
学名:アナラトロフィルム・デシデラツム(Anarathrophyllum desideratum)
科名:マメ科(Fabaceae)
属名:アナルツロフィルム属(Anarthrophyllum)
現地名:マタ・グアナコ(Mata Guanaco)、ネネオ・マチョ(Neneo macho)

 

マタ・グアナコ(Mata Guanaco)は、パタゴニアの草原やアンデス地方の低い丘の斜面などに自生し、その姿がまるで巨大なクッションのように見える灌木です。

 

高さ10~60cm、直径は30~60cmとなり、茎に向かって枝分かれした葉が多く、葉の大きさは15mmほど。クッション状に広がる茎には棘を持ち、触れてみると非常に硬く、鋭い棘であることが判り、思わず飛びあがってしまう痛みを感じるほどです。

 

初夏11月~12月上旬に真紅~オレンジ色の花を咲かし、以前ご紹介したパタゴニアの象徴的な花であるノトロ(Embothrium coccineum)と同じく氷河が後退した荒地に最初に生える植物とも言われ、棘に注意しながら観察するとマメ科のエニシダの様な可愛らしい花を咲かせています。
※アナルツロフィルム属(Anarthrophyllum)を調べていると「エニシダ連 (Genisteae )」という分類に入るようです。

 

マタ・グアナコ(Mata Guanaco)の花

初夏の11~12月上旬、パタゴニアの大草原・パンパを走行していると突然車窓から真紅のクッションが姿を見せることがあります。私がこのマタ・グアナコの真紅の花を初めて観察したのがパタゴニアの名峰フィッツ・ロイの麓・チャルテン村からカラファテの街を目指している道中でした。

あまりにキレイな真紅のクッションを車窓から見た時、大声でドライバーさんとガイドさんに声を掛け、無理を言ってバスを停めてもらい、観察したことを今でも覚えています。

 

クッション状の「マタ(Mata)」と呼ばれる植物の中には黄色い花を咲かせる別の種類もありますが、そちらはいつの日かご紹介したいと思います。

 

南米パタゴニアへ添乗へ行かせていただくと、カメラと花図鑑だけを持って長期間滞在し、自然が作り出したパタゴニアの雄大な山々やグレーシャーブルーに輝く氷河の撮影と共にパタゴニアに咲く美しい花々の観察を楽しみたいと感じることがあります。いつの日か「パタゴニアへ半年滞在」というツアーを実現できないものでしょうか?ご参加いただけますか?

パタゴニアの名峰フィッツ・ロイ

 

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レオントポディウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)

本日は、私がこれまで添乗させていただいたトレッキング・ツアーの中で、最もしんどかったネパール・エベレスト街道のクーンブ氷河上で出会い、心癒された、忘れられない花の1つ「レオントポディウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)」を紹介させていただきます。

レオントポティウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)

被子植物 双子葉類
学名:レオントポディウム・モノケファルム
科名:キク科  属名:ウスユキソウ属(Leontopodium)

 

レオントポディウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)はネパール中部~インドのシッキム、チベット南部に分布、花期は7~9月ですが、私が出会ったのは11月でした。

 

高山帯の氷河沿いの岩間や砂礫地で細く根茎を伸ばして群生し、高さは1~5㎝、私が観察した時は真っ白で可憐な色合いでしたが、乾燥すると全体に金色を帯びることもあるようです。
表面に厚い綿毛をつけ、葉の長さ5~20㎜、苞葉群(白い部分)は直径2~3㎝ほどです。

頭花は通常1つ、直径は5~7㎝、大型のものはその周囲に数個の小さな頭花を付けます。

 

この花に出会ったのは2014年11月、可憐な花との出会いは全く想像もしていなかった1日でした。

コンマ・ラ峠手前でマカルー峰展望
コンマ・ラ峠からマカルー峰を展望

朝、ローチェ南壁を目の前に望むテント場を出発し、昨日降った新雪が積もる急登ルートを登りながらこの日の難関であるコンマ・ラ峠(5535m)を目指していました。

 

息も絶え絶え、何とか急登ルートを登り切り、周囲を見渡すとマカルー峰(8463m)をはじめとする素晴らしい景観が広がっていました。

 

その後、再びガレ場の狭いルートを登り上げ、難関だった標高5535mのコンマ・ラ峠に到着頃には喜びと疲労が、複雑に絡み合うような思いでした。

 

ここで展望したマカルー峰の景観は忘れることができない光景であり、その時ご一緒した皆さんの疲労と感動が入り混じった笑顔も忘れることができません。

 

クーンブ氷河へ向けて下る
クーンブ氷河上から望むプモリ峰

コンマ・ラ峠で絶景をゆっくりと楽しんだ後、クーンブへの下りルートがスタートしました。
降り積もった雪が凍結していたため、アイゼンを着用しながら慎重に下っていると雪解けの影響で崖崩れにも遭遇し、恐る恐るの下山ルートでした。

 

コンマ・ラ峠からの急下りルートを下り切ると、クーンブ氷河のモレーン麓からいよいよ「クーンブ氷河の横断」を開始しました。

クーンブ氷河横断の際にも周囲の山々の景観、氷河上の氷河湖の景観を楽しみながら歩きましたが、恐怖の中で下りルートを終えたばかりだったこともあり、私も疲労困憊でした。

 

そんな時でした!ガレ場の陰に小さな花の姿が目に飛び込んできました!!

 

レオントポディウム・モノケファルムの可憐な花を観察していると、心が癒され、標高が5,000m以上の地でまさに命がけの撮影を楽しみました(右の写真のような場所でこの花が一株だけ咲いていました)。

 

世界各国の様々な氷河を見てきて、トレッキングもしてきました。パキスタン・バルトロ氷河、パタゴニアでのトレッキングなどを楽しんでいると、モレーン帯にはたくさんの花々が咲いているとは思っていましたが、ネパールのエベレストの麓のクーンブ氷河で咲いていたレオントポディウム・モノケファルムは一生忘れることができない花となりました。

レオントポティウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)②

 

038

ボンボリ・トウヒレン(Saussurea Obvallata)

週末、嫁さんと共に京都の嵐山へ紅葉を楽しんできました。

特に大本山天龍寺塔頭・宝厳院では、苔の鮮やかな緑と相まって非常に美しい庭を見学することができ、日本の秋を楽しむことができました。

 

前回は「セーター植物」という種類のトウヒレンの一種「ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)」をご紹介しましたが、本日は「温室植物」という種類の「ボンボリ・トウヒレン(Saussurea Obvallata)」をご紹介します。

ボンボリ・トウヒレン(Saussurea Obvallata)

被子植物 双子葉類
学名:サウスレア・オヴァラータ Saussurea obvallata
和名:ボンボリ・トウヒレン
現地名:ブラマー・カマル(インド北部)
科名:キク科  属名:トウヒレン属(Saussurea)

 

温室植物と聞くと、植物園で育てられた花のように聞こえますが今回は違います。
写真でご覧いただけるように、葉(少し半透明)や苞葉を広げ花を覆い、高山地帯での低温や紫外線など過酷な環境から身(花)を守るため、自ら「温室」を作ります。今回ご紹介するボンボリ・トウヒレンは、温室植物の代表例として紹介されることの多い花の1つです。

 

ヒマラヤ全域や中国西部、チベットの高山帯の岩場やモレーン帯(氷堆石)の斜面に自生し、比較的隔離されて点在します。

花期は8~9月で高さは20㎝、大きいもので80㎝に達するものもあります。

基部の葉には柄があり、葉身は細長い楕円形で長さは20㎝ほど、周囲に鋸歯があるのも特徴です。

茎頂に密集して数個~数十個の小さな暗紫色の花を咲かせ、白い膜質の苞が小さな花を包み込んでいます。花は雌雄同体(雄と雌の両方の器官を持っている)であり、昆虫によって受粉されます。

 

インド北部では、この花を「ブラマー・カマル(Brahma Kamal)」と呼び、白い苞葉を裏返したものを蓮の花に見立てて、山の神に捧げるそうです。シーク教の儀式に用いる神聖な花となっています。

以前、チベット添乗で観察した際には現地ガイドから、この花は昔からチベット医学では植物全体が薬草として使用されており、風邪や咳の治療に効果があると聞いたことがあります。

 

高山帯でボンボリ・トウヒレンを見つけると、まずはその容姿に驚かされ、じっくり観察すると白色や淡い黄緑色の苞葉に包まれた暗紫色のトウヒレンの花(中の花を観察して初めてトウヒレンと実感します)の美しさに驚かされ、一度で二度楽しめる花でもあります。

インド・ガルワール地方や東チベットのコンボ地方へ、セーター植物や温室植物の花々を観察へ、是非出掛けてみてください。

ボンボリ・トウヒレン(Saussurea Obvallata)②
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ワタゲ・トウヒレン(Saussurea gossypiphora)

日本各地で紅葉が見頃を迎えるというニュースを目にする機会が増えてきました。
私も京都にでも出かけ、紅葉を楽しもうかと計画中です。

 

本日は、久々にアジアの花をご紹介します。
皆さん「セーター植物」という言葉はご存知でしょうか?
11月下旬ともなると「今日は寒くなりそうだからセーターを1枚追加しよう」と考えることもあるかと思います。高山植物も同じです。環境の厳しい条件(低温が続く高地など)に耐えるため、太陽エネルギーの吸収のため、全体を綿毛で覆う植物もあります。

そのような植物を「セーター植物」と言います。

今回はセーター植物の中でも代表的な「ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)」をご紹介します。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)①

被子植物 双子葉類
学名:Saussurea gossypiphora
和名:ワタゲ・トウヒレン 英名:Snow ball
科名:キク科  属名:トウヒレン属(Saussurea)

 

トウヒレン属は、中国西部の山岳地帯を中心として北半球に多く分布します。
シノ・ヒマラヤ地域(中国南西部からヒマラヤにかけての山岳地帯のことを植物地理学上ではそう呼びます)では、綿毛で覆われたセーター植物や、苞葉(ほうよう:花芽を包む葉)に覆われた温室植物、地上茎がなく茎が伸びず葉を地上に広げたロゼッタ植物など、トウヒレン属の植物は厳しい環境に対応する様々な適応・順応が見られます。

 

セーター植物の代表例ともいえるワタゲトウヒレンは、インドのガルワールからブータン、チベット南部で観察することができ、地域によって多少の誤差はありますが、7月中旬~8月後半にかけて観察することができます。
もう10年以上前になりますが、私も夏のブータンで観察することができ、お客様とその姿を観て興奮したことを覚えています。

 

荒涼とした礫質の斜面に多く生え、高さは10~20㎝ほど。基部の葉は細長く、長さは10㎝前後で縁がギザギザとした鋸歯です。
一見アザミを思わせる姿形ですが、葉や茎に棘はありません(これもトウヒレン属の特徴)。チベットで観察できるもの、ブータンで観察できるもの、鋸歯の形状が少し異なります。

上の写真①がチベットで観察したもと、下の写真②がブータンで観察したものです。葉の違いが見てとれるかと思います。

観察した時の写真はフィルム写真だったので、下の写真②は2019年に弊社太田がブータンで撮影した写真を拝借しています。

綿毛の様子もはっきりわかるキレイな写真です。

 

茎の中部から上部の葉に綿毛が生え、直立して花序(かじょ)をふんわりと包みます。茎の頂部は半円上に広がり、直径5㎜程度の小さな花(花の色は少し濃い紫です)を密集して咲かせます。

 

全体を覆った綿毛は「花粉媒介を行う昆虫を誘うための装置」とも言われています。
昆虫の活動も低温によって制約を受けてしまいます。寒さをしのぐため、綿毛に覆われたセーター植物に避難するそうです。
全体を覆っているように見えますが、頂部には小さな穴が開いており、蜂などが出入りをし、花の花粉媒介を助けます。
※ある資料には、内部の温度は外気温より15度前後も温かいというものもあります。

 

シノ・ヒマラヤ地域の高地で綿毛に包まれたワタゲトウヒレンを観察すると、その真っ白な姿に目を奪われます。その真っ白な綿毛には、保温効果とともに、花粉媒介を誘導するような仕組みもあることも知っていると、また少し見方も変わるかもしれません。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)②