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エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)

我が家では嫁さんが多肉植物の栽培に凝っていることもあり、塊根植物の一種である「アデニウム・オベスム(Adenium obesum)」を購入しました。
色々と調べていると大きく肥大した塊根をもつキョウチクトウ科のコーデックスプランツで、アデニウム属の代表種で「砂漠のバラ」とも称されているようです。アフリカ大陸北部からサハラ砂漠以南や西アフリカ沿岸の国々が原産のようです。
主幹は太く丸みを帯び、頂部から細かく分枝したユニークな形をしており、ラッパ状の美しい花を咲かせるようで、「砂漠のバラ」と呼ばれる所以だそうです。
現在、光沢のある鮮やかな葉を沢山つけており、葉柄(葉身と茎を繋ぐ部分)から小さな蕾のようなものも確認ができ、「砂漠のバラ」と称される花が咲くことが楽しみの1つになりました。

 

では本題の「世界の花だより」です。
本日はセリ科の一種「エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)」をご紹介します。

 

エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)

 

被子植物 双子葉類
学名:エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)
別名:ピレネー青アザミ
科名:セリ科(Apiaceae)
属名:エリンジウム属またはヒゴタイサイコ属(Eryngiumm)

 

一見するとアザミの花を思わせる見た目、さらに「ピレネー青アザミ」という別名をご覧になり「青アザミなのにセリ科?」と気付かれた方も多いのではないでしょうか。
エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)はセリ科のエリンジウム属の一種であり、ピレネーの固有種の花の1つです。資料によって「スペイン~地中海沿地方原産」と記載しているものもありますが、私が観察したのもスペイン・ピレネー山脈でのフラワーハイキングで、現地ガイドさんも「ピレネーの固有の花」と紹介してくれていました。
エリンギウム属(Eryngium)はアザミに似た形状ですが、世界に230種ほど分布します。

 

草丈は15~45cmになるものもあり、茎の部分が花全体の色合いと同じ、淡紫色をしているのが特徴です(中には濃紫色のものもありました)。
葉は全体的に刺々しく3裂し、地表にロゼット状に広げ、若干の光沢と葉に白い斑点のようなものが確認できます。若い時期には葉の光沢はなく、生育過程の中で徐々に光沢が確認できる資料もありました。

 

細長い花弁が広がっている形状のように見えますが、実際には花弁ではなく、エリンギウム属の特徴である総苞(そうほう:花軸の一部で基部に生じる小形の葉のこと、花全体を保護する)です。
花期は初夏の5月~8月、実際の花は総苞の中心に直径15~20㎜の小さな球状の花を密集して咲かせます。

 

刺々しい葉、茎頂に密集して咲く花の形状をみて、初見ではアザミの花と勘違いしてしまう点が「ピレネー青アザミ」と言われる所以と、現地ガイドさんが説明していたのを覚えてきます。

 

非常に特徴的な形状のエリンジウム・ブルガティは、家庭園芸やガーデニングなどでも人気の花だそうですが、ピレネー山脈でフラワーハイキングを楽しんでいる際、自然に自生するエリンジウム・ブルガティを観察すると、その特徴的な形状に心を奪われ、気付いたら観察に夢中になってしまう花の1つです。

 

エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)
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リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)

先日、南極半島ではじめて緑色の雪が発見された地域を地図化したという興味深いネットニュースを見つけました。研究を率いたケンブリッジ大学植物科学科のMatt Davey教授は「雪面で1,679個の緑藻類の花を見つけました」と語っています。
緑藻類の花は、南極大陸で最も温暖化が進んでいる南極半島の西海岸に沿った島々で発生し、暖かくなるにつれて南極の雪面で胞子が発芽し、雪解け水の流れに乗って成長していくそうです。
また、野生動物の糞によって藻類が繁殖し、雪が緑色になることも判り、研究チームが地図化した緑藻類の花の60%以上は、ペンギンのコロニーやアザラシの生息地域の海岸から3マイル(約4.8km)以内で発見されたそうです。
未だ緑の雪がどのような影響をもたらすか不明な部分も多いようですが、グリーンランドで行われた雪原藻類の研究では、雪が吸収する日光と熱の量を増加させ、氷を早く溶かしてしまうことがわかっています(南極では過去10年間で3倍の氷が失われています)。今後の研究結果にも注目していきたいと思います。

 

本日はドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされるトリカブトの一種、ヨーロッパなどに自生する珍しい色合いのトリカブトである「リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)」をご紹介します。

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Aconitum lycoctonum(アコニツム・リコクトヌム)
別名:Aconitum vulparia(アコニツム・ブルパリア)
英名:Yellow Wolfsbane
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:トリカブト属(Aconitum)

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)は、毒草で有名なトリカブトの一種です。トリカブトはキンポウゲ科と案内すると驚かれる方も多いです。

 

ピレネー山脈、ヨーロッパ・アルプス、アペニン山脈(イタリア半島を縦貫する山脈)にかけての山岳地帯、西アジアにも自生する多年草です。私が観察したのは、スイスやピレネー山脈でのフラワーハイキング時でした。

 

草丈は50~120㎝と高く、開けた林内や標高2,000m前後の草原・牧草地などに自生します。
葉は掌状に3~6中裂し、全草が有毒で、とくに根には強い毒性があります。

 

花期は6月~9月、無毛の茎先に穂状の総状花序(総 (ふさ) の形になっている花のつき方)、長い花柄(かへい:花軸から分かれ先端に花をつける小さな枝)の先にクリーム色の花を咲かせます。
世界に約300種、日本には約30種が自生するそうですが、トリカブトと言えば紫色というイメージが強いため、クリーム色の花を「トリカブトですよ」と説明しても驚かれたり、信じてもらえないことがあります。

 

トリカブトの名前の由来は、花の形状が鳥兜・烏帽子に似ていることから名付けられたと言われており、海外では「僧侶のフード(monkshood)」と呼ばれています。

 

花弁がめしべやおしべを包んでいるような形状をしているように見えますが、実はクリーム色の部分は花弁ではなく、全て萼片(がくへん:花の最も下(外)側に生ずる器官で,葉の変形したもの)です。
合計5枚の萼片をもち、一番上の1枚(上萼片)は兜状で蜜を貯め込んだ部分を守る形状であり、雨対策の意味合いを持ちます。
ある資料には2枚の側萼片は受粉活動を担うマルハナバチの姿勢を制御する役割をもち、下萼片2枚はマルハナバチが花にとまるときの足場の役割をもち、この4枚の萼片がないと、効率的に花粉をつけられないとありました。

 

トリカブトの花弁は一番上の1枚(上萼片)に隠れており、上部が山菜のゼンマイのように渦を巻いており、そこに蜜を貯め込みます。トリカブトの形状は盗蜜できない構造となっており、虫媒花として最も進化した花とも言われています。

 

ピレネー山脈で上萼片に隠れているリコクトヌム・トリカブトの花弁を観察しようと思い、手を伸ばした際に現地ガイドから止められたことを覚えています。花に手をかけることに対して注意されたのか、毒性で危険だから止められたのか・・・そこまで覚えていませんが、一度じっくりと観察してみたいです。

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)②
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グラキアリス・キンポウゲ(Ranunculus glacialis)

昨日ネットニュースにて、メキシコ南東部にあるマヤ文明の「アグアダ・フェニックス遺跡」で、紀元前1000年~同800年にかけて造られた巨大な土造りの祭祀施設が発見され、マヤ文明で最古、最大の公共建築物ということです。
コロナウイルスが終息し、1日でも早くマヤ文明の遺跡など見学するツアーが再開できることを願うばかりです。

 

本日はキンポウゲ科の一種である「グラキアリス・キンポウゲ(Ranunculus glacialis)」をご紹介します。

 

グラキアリス・キンポウゲ(Ranunculus glacialis)

 

被子植物 双子葉類
学名:Ranunculus glacialis(ラヌンクルス・グラキアリス)
英名:Glacier buttercup
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:キンポウゲ属(Ranunculus)

 

グラキアリス・キンポウゲ(Ranunculus glacialis)は、ヨーロッパ・アルプスやピレネー山脈など標高2,000~4,000m地帯の岩場や岩礫地、アルプスでも最も高所に自生します。
また、スヴァールバル諸島(北極圏にあるノルウェー領の群島)やグリーンランドなど極地にも自生するキンポウゲの花です。
私がグラキアリス・キンポウゲを観察したのは、イタリアのモンテ・チェルビーノ(ヨーロッパの名峰マッターホルンのイタリア名)の麓でフラワーハイキングを楽しんでいた時でした。

 

種小名の「glacialis」は「氷河」という意味のため、直訳すると「氷河キンポウゲ」となりますが・・・「glacialisは氷河を意味する」という紹介はあっても「氷河キンポウゲ」と表記された資料はありませんでした。さすがに直訳すぎますね。

 

草丈は5~25㎝、写真では少し判りずらいですが茎の色は紫色なのが特徴的です。
根生葉は少し肉厚で掌状に3裂し、茎の上部に披針形(先が少し尖り細長い形)の葉をつけます。葉や茎は無毛と有毛の個体があるという資料もありました。

 

茎頂には直径2㎝ほどの白い花を1~2個咲かせ、丸みのある花弁が5枚あり、花弁が隙間なく重なり合っているのがキンポウゲの花らしい部分です。
葯(おしべ先端の,花粉を入れる袋状構造)の鮮やかな黄色。花弁の白色と葯の部分の黄色の色合いが何ともいえない可憐さを感じさせます。
萼片(花弁の付け根の最外側にある緑色の小さい葉のようなもの)も5つあり、茶色い毛が密集しています。
グラキアリス・キンポウゲの咲き始めは写真の様に白色の可憐な花を咲かせますが、時間の経過とともにピンク色から赤橙色に変化していきます。

 

厳しい環境の岩場や岩礫場に突如として鮮やかな白色のキンポウゲを見つけたのが、小休止をしている時でした。休憩そっちのけでグラキアリス・キンポウゲの観察を楽しんでいました。

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ロトゥンディフォリア・イチヤクソウ(Pyrola rotundifolia)

早いもので明日から6月です。
6月と言えば、梅雨の時期に見頃を迎えるアジサイが思い浮かびます。近所でも花が咲き始めているアジサイに目が留まるようになりました。アジサイが満開に花咲く頃、気兼ねなく外出・観察できることを願うばかりです。

 

本日はツツジ科・イチヤクソウ属の一種「ロトゥンディフォリア・イチヤクソウ(Pyrola rotundifolia)」をご紹介します。

 

ロトゥンディフォリア・イチヤクソウ(Pyrola rotundifolia)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pyrola rotundifolia(ピロラ・ロトゥンディフォリア)
英名:Round-leaved Wintergreen
科名:ツツジ科(Ericaceae)
属名:イチヤクソウ属(Pyrola)

 

以前はイチヤクソウ科(Pyrolaceae)に分類されていましたが、現在はツツジ科(Ericaceae)に分類されています。そのため、資料によってツツジ科、イチヤクソウ科と様々のようです。

 

ロトゥンディフォリア・イチヤクソウはヨーロッパの大部分をはじめ、西アジア、北米大陸の北東部にかけて広く分布します。低山から亜高山帯の林内、湿地などに自生し、石灰岩地帯を好んで自生するという資料もありました。
私がロトゥンディフォリア・イチヤクソウを観察したのはヨーロッパ・アルプスのスイス、スペイン・ピレネー山脈でフラワーハイキングを楽しんでいる道中でした。

 

草丈は10~40㎝と背が高く、茎は直立で花茎(かけい:花のみをつける茎)の上部に8~30個近い数の花をつけ、若干下向きに花を咲かせます。
葉は5㎝ほどの円形に近い楕円形で根生し、若干の光沢があり、縁に鋸葉が確認でき、少し肉厚でもあります。

 

花期は6~8月、花は1㎝前後と小ぶりで半球形状で花弁は白色で5枚、めしべの部分は赤身を帯びており、花弁より突き出しており、先端部が反るように曲がっているのが特徴的です。
白い花びらと赤みを帯びためしべが魅力的な、心惹かれる色合いです。

 

資料によっては、日本にも自生すると記載がありましたが、そうではないようです。近縁種としてイチヤクソウ(一薬草、学名:Pyrola japonica)やジンヨウイチヤクソウ(腎葉一薬草、学名:Pyrola renifolia)が紹介されていました。

 

花の1つ1つは小ぶりで白い花のため、他の花より目立ちにくいですが、数多く花をつけ、何より背丈の高い花であるため、フラワーハイキングを楽しんでいると見つけやすい花です。ピレネー山脈のフラワーハイキングの時には、皆さんで観察を楽しみ、順番に撮影を楽しんだのを今でも覚えています。

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ゼラニウム・ファエウム(Geranium phaeum)

先日23日、「尾瀬国立公園の山開き」というニュースを見ました。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、尾瀬保護財団や環境省などは当面の入山自粛を求めている中、尾瀬ヶ原周辺では雪解けが進み、ミズバショウが見頃を迎えているそうです。
尾瀬は私が高山植物に興味を持ったきっかけとなった場所の1つ(北海道・大雪山、北海道・礼文島、尾瀬国立公園の3ヶ所への添乗がきっかけでした)ということもあり、1日でも早く気兼ねなく「遥かな尾瀬のフラワーハイキング」を楽しめることを願うばかりです。

 

前回に引き続きフウロソウ科フウロソウ属の一種、今回は珍しい色合いのフウロソウである「ゼラニウム・ファエウム(Geranium phaeum)」、日本の図鑑で「クロバナフウロソウ(黒花風露草)」と紹介されてる種を紹介します。

 

ゼラニウム・ファエウム(Geranium phaeum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Geranium pyrenaicum 和名:クロバナフウロソウ(黒花風露草)
科名:フウロソウ科(Geraniaceae)
属名:フウロソウ属(Geranium)

 

世界各地に分布するフウロソウ科の花は淡い色合いのものが多いですが、今回ご紹介するゼラニウム・ファエウム(Geranium phaeum)は暗紫色が印象的なフウロソウです。
ヨーロッパ各地に分布し、平地の草原や山岳地帯などに自生します。私が観察したのはスペイン・ピレネー山脈でフラワーハイキングを楽しんでいる時でした。

 

草丈は50~80㎝で根茎をもち、茎は上部で枝分かれし、全体的に長めの白毛が確認できます。

 

根生葉はロゼット状につき、掌状に広がり15㎝ほどの大きさで5~7つに裂けています。
茎葉は互生(ごせい:茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)につき、葉に紫褐色の斑紋が広がっていることも確認できます。撮影をした際はあまりの花のキレイさに気を奪われすぎで、葉の撮影を忘れてしまったことが心残りです。

 

花期は5~8月、花は2~3㎝ほどの大きさで5枚の花弁をもち、若干後ろ向きに反り返っているのが特徴です。
暗紫色の花弁の色合いが特徴ですが、中央のおしべが突出し、おしべの周辺が白くなっており、そのことでゼラニウム・ファエウムの美しさを際立たせているように感じます。

 

開花後は他のフウロソウ科の花と同じく蒴果(さくか:果実のうち乾燥して裂けて種子を放出する裂開果のうちの一形式)をつけます。

 

日本を含む世界各地で様々なフウロソウ科の花が観察でき、各地で群生している風景は何とも言えない美しさです。
3回続けてフウロソウ科フウロソウ属の花を紹介させていただきましたが、群生するフウロソウを観察するだけではなく、一度1つのフウロソウをゆっくり、じっくりと観察してみてください。

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ゼラニウム・ピレナイクム(Geranium pyrenaicum)

今朝、朝のニュースでコロナウイルスの影響に伴う自粛規制のため休園している各地域のフラワーパークの映像が流れていました。各フラワーパークは休園期間中も解除後の来園客のため、来シーズンも同様に満開の花々を来園客に観てもらうため、現在も手入れを続けているそうです。
1日でも早く、安心してフラワーパークなどへ出掛けることができるよう、私たちも気を付けて生活しなければいけないと感じた朝でした。

 

前回に引き続きフウロソウ科フウロソウ属の一種である「ゼラニウム・ピレナイクム(Geranium pyrenaicum)」花の図鑑によっては「ピレネーフウロ」と紹介されてるフウロソウの花をご紹介します。

 

ゲラニウム・ピレナイクム(Geranium pyrenaicum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Geranium pyrenaicum 和名:ピレネーフウロ
科名:フウロソウ科(Geraniaceae)
属名:フウロソウ属(Geranium)

 

学名のピレナイクム(pyrenaicum)と聞いてお気付きの方も多いかと思いますが、種小名は「ピレネー山脈の」という意味です。
先日、フウロソウ属の多くは、国内ではハクサンフウロやエゾフウロなど「地域の名前○○+フウロ」というふうに呼ばれているとご紹介しましたが、ゲラニウム・ピレナイクムはその名のとおり原産国はスペイン・ピレネー山脈ですが、固有種ではなく、ヨーロッパ・アルプスや北欧など広く分布します。上の写真は私がスイスに添乗した際に撮影したものです。

 

また、ブログ作成時に調べていると、日本では北海道でも帰化・定着し、北海道のブルーリスト(北海道に定着している外来種)に選定されているそうです。

 

地中海沿岸地方の山岳地帯で、牧草地や草原、乾燥した土壌に自生します。
草丈は30~60㎝、根元に根生葉を出し、ロゼット状に広がっています。
葉の形状はほぼ円形で5~7つの深い切れ込みがあり、対生(葉が茎の一つの節に2枚向かい合ってつくこと)します。

 

開花時期は5~9月、花は直径2㎝弱と小さく、紅紫色の5枚の花弁をたくさんつけます。
花弁の先端が少し深めに裂けているため、見た目には「紫色のミミナグサ(ナデシコ科)かな?」と思わせる形状です。ある資料には「先端が裂けているため、遠目には10枚の花弁があるように見える」とありました。フラワーハイキング中にゼラニウム・ピレナイクムを発見すると、確かにそのように見えます。

 

開花後は0.5㎝ほどの蒴果(さくか:果実のうち乾燥して裂けて種子を放出する裂開果のうちの一形式)をつけます。

 

前述したように「紫色のミミナグサ?」または日本の伊吹山や三重県の鈴鹿山脈(福寿草がきれいな場所です)などに分布する同じフウロソウ科フウロソウ属の「ヒメフウロ(姫風露:Geranium robertianum)かな?」と思わせるゼラニウム・ピレナイクム。
その色合い、小ぶりの形状、ハート型の花弁など、発見するとゆっくり観察したくなるフウロソウの花です。

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チシマフウロ(Geranium erianthum)

昨日、日本では緊急事態宣言が39県で解除されました。また、世界の一部の国・地域でも6月や7月から国境をオープンするという緩和情報も入ってきておりますが、国境オープンという情報があっても、国際線の再開や空港オープンの明確な情報はありません。
日本全体で回復傾向であるというニュースも多いですが油断はせず、世界各国の渡航緩和がされた際、「日本からの渡航者なら問題なし」と思ってもらえるよう、今一度気を引き締めて頑張らなければいけないと、ニュースを観て感じました。

 

本日はフウロソウの一種である「チシマフウロ(Geranium erianthum)」をご紹介します。

 

サハリンで観察したチシマフウロ(Geranium erianthum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Geranium erianthum  和名:千島風露
科名:フウロソウ科(Geraniaceae)
属名:フウロソウ属(Geranium)

 

フウロソウ科(Geraniaceae)は花は約420種ともいわれ、日本の低地から高山帯、世界各地にも分布します。
フウロソウ属の学名はGeraniumですが、日本国内で「ゼラニウム」と呼ばれる品種の多くがテンジクアオイ属です。フウロソウ属の多くは、国内ではハクサンフウロやエゾフウロなど「地域の名前○○+フウロ」というふうに呼ばれています。

 

チシマフウロ(Geranium erianthum)は、本州北部では亜高山帯や高山帯に分布し、北海道は海岸地帯にも分布・生育します。海外ではサハリン、千島列島、北太平洋沿岸域を回りこんでカナダ北西部まで分布します。

 

日当たりの良い草地や砂礫地に自生し、草丈は20~50㎝。
葉は掌状に5~7裂に裂け、切れ込みは浅く裂片の先はそれほど鋭く尖らない形状をしています。姿がそっくりのエゾフウロ(蝦夷風露:Geranium yezoense)の葉は切れ込みが深いため、見分けるポイントと言われています。

 

花は茎頂に直径3㎝ほど、5枚の花弁で左右対称で青紫色の花をいくつか咲かせます。花期は6~8月です。
北海道の中央高地では淡い色のチシマフウロが多いという資料もありました。

 

花弁に比べ、葯(やく:おしべの一部で花糸の先端に生じ花粉形成が行われる袋状の部分)の部分が若干濃い紫色であるため、この色合いの違いが花の美しさであると個人的に思っています。

 

花弁の基部や萼(がく:花全体を支える役割の花弁の付け根にある緑色の小さな葉のような部分)には産毛のような白毛が確認できます。学名の「erianthum」は「軟毛の生えた花の」という意味を持つそうです。

 

フウロソウ科は日本を含め、世界各地で観察ができます。そのため、それぞれを見分けることが非常に難しく、お客様へも「フウロソウですよ」と説明しがちになり、まだまだ勉強が必要です。
北海道の中央高地にはチシマフウロの花色の淡いものが「トカチフウロ(Geranium erianthum f. pallescens)」として区別され、完全な白花品をシロバナノチシマフウロ(Geranium erianthum DC. f. leucanthum)とされています。
色々と調べていると、この3種を「チシマフウロの三兄弟」と表現されているブログがあり、非常に印象的な面白い表現で、私もいつしかこの三兄弟の観察・撮影を楽しみたいものです。

 

チシマフウロ(Geranium erianthum)
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ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)

先日ネットニュースで福岡県八女市にある樹齢600年を超えた国の天然記念物「黒木の大藤」を観賞する『八女黒木大藤まつり』がコロナウィルスの影響で中止、悲しいことに藤の花が刈り取られてしまったということでした。
外出自粛のゴールデンウィークも終盤となりました。そんな中、非常事態宣言が5月末まで延長されました。近所の花や、世界各地での高山植物の鑑賞などを楽しむことのできる日が1日でも早く訪れることを願いながら、頑張って乗り越えましょう。

 

本日も前回に引き続き、ギアナ高地の食虫植物の1つ「ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)」をご紹介します。

 

ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)

 

被子植物 双子葉類
学名:ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)
和名:モウセンゴケ(毛氈苔)
科名:モウセンゴケ科(Droseraceae) 属名:モウセンゴケ属(Drosera)

 

ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)は、ブラジル、ガイアナ、ベネズエラ原産、ロライマエという学名でお気づきの方も多いかと思いますが、ギアナ高地固有のモウセンゴケです。
今回掲載させていただく写真は、2018年11月にギアナ高地のチマンタ山塊(ベネスエラ)で観察・撮影をしたものです。

 

1~2㎝ほどの葉柄(ようへい:葉身と茎を接続している小さな柄状の部分)がロゼット状に伸び、先端に腺毛(せんもう:先が球状になった毛のこと)のある丸い捕獲葉をつけています。腺毛からはネバネバとした酸性の粘液を分泌し、小昆虫を捕まえ消化吸収し、栄養源として育ちます。

 

ドロセラ・ロライマエの茎の高さは5~10㎝弱と短く、他の地域の種と大きな差はありません。
ただ、他の地域の種と違い、古くなった(枯れた)捕獲葉が下向きに垂れた後に株立ちした状態になり、その株立ちとなった部分から新たなドロセラ・ロライマエが自生し始めるのが特徴です。

 

株立ちのドロセラ・ロライマエを「高床式モウセンゴケ」と現地で呼んでいました。

 

古い株立ちの上に自生するドロセラ・ロライマエを観察すると、茎丈が非常に高い種であると勘違いしてしまいそうになります。現地で、株立ちの状態のドロセラ・ロライマエを観察した際、お客様と「高床式モウセンゴケ」と名付けたのを覚えています。

 

モウセンゴケの花といってもあまりイメージできない方も多いと思います。私もモウセンゴケというものを初めて観察した(立山・弥陀ヶ原でした)際には、捕獲葉自体が花と思っていました。

 

小さな蕾をつけたドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)

 

ドロセラ・ロライマエは、茎の根元近くで直立または湾曲した長さが8〜20cmの軸の先に白またはピンク色の小さな花を咲かせます。
私は蕾の状態までしか観察したことがなく、小さな花の開いたドロセラ・ロライマをいつの日か観察したいものです。

 

茎の根元から湾曲した軸を伸ばすドロセラ・ロライマエ

 

 

 

 

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リクニス・アルピナ(Lychnis alpina / Silene suecica)

先日、大阪の「大阪まいしまシーサイドパーク」で行われる予定だった「100万株の青い花 ネモフィラ祭り2020」がコロナウィルスの影響に伴って中止になったと情報番組で伝えていました。
1年かけて栽培・準備を進め、満開に咲くネモフィラが観てもらえないという寂しいニュースでしたが、番組内で流れたネモフィラの花園の映像は、来年は是非行ってみようと思える映像でした。

 

先日に引き続き、グリーンランドで観察した花の1つである「リクニス・アルピナ(Lychnis alpina)」をご紹介します。

 

リクニス・アルピナ(Lychnis alpina Silene suecica)

被子植物・双子葉類
学名:リクニス・アルピナ(Lychnis alpina または Silene suecica)
英名:アルパイン・キャッチフライ(Alpine Catchfly)
科名:ナデシコ科(Caryophyllaceae) 属名:マンテマ属(Silene)

 

リクニス・アルピナ(Lychnis alpina)は2000種、88属にも達するナデシコ科に属する花です。
属名はマンテマ属(Silene)で学名も「Silene suecica」と表記されることもあります。
資料の中にはセンノウ属(Lychnis)と表記されていることもあり、マンテマ属(Silene)とセンノウ属(Lychnis)に関しては、以前は別属として扱われていたようですが、1984年に発表された文献でマンテマ属にまとめられたという資料を見つけました。

 

ノルウェーやスウェーデンなどに生息し、ヨーロッパ・アルプスやピレネー山脈、北米にも生息します。今回掲載した写真はグリーンランドで観察したものです。

リクニス・アルピナ(Lychnis alpina Silene suecica)

 

標高2,000~3,000mの岩礫地や放牧地などに生え、粘り気を少し感じる茎の高さは5~10㎝。
根生葉は披針形でロゼット状に広がり、茎葉は無毛で細長い線形で長さは1-5㎝。
茎頂には頭状花序にピンク色(稀に白色もあるようです)の花を咲かせ、花弁は5枚。花弁1枚1枚に深い切れ込みが入っており、ナデシコ科の特徴が花弁からも確認できます。

 

英名で「アルパイン・キャッチフライ(Alpine Catchfly)」と呼ばれ、粘り気を少し感じる茎に由来するようです。色々調べてみると、茎上部の葉の下に粘液を分泌する部分が帯状にあり、その粘着部で小昆虫を捕らえるとのことですが、捕獲された昆虫を消化吸収することはなく食虫植物ではようです。花の蜜だけを吸収し、虫(特にアリ)が茎を登って花に達するのを妨げていると考えられているそうです。

 

グリーンランドでは、岩礫場の岩陰にひっそりと咲いており、前回のヒメヤナギランのように氷河とともに撮影という訳にはいきませんでしたが、その可憐さだけで満足、何よりもグリーンランドという地で可憐な花を観察できたことの喜びが大きかったのを覚えています。

リクニス・アルピナ(Lychnis alpina Silene suecica)
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ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)

先日までつぼみだったツツジの花も徐々に開花が始まり、近所ののだふじ(大阪市福島区の花)のつぼみの先からもふじの花の色合いが見え始めました。

我が家の近所の彩り豊かになり、のんびり散歩でも楽しみたいと感じる毎日です。

 

本日は「ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)」をご紹介します。

 

ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)

学名:Chamaenerion latifoliumまたはEpilobium latifolium
科名:アカバナ科(Onagraceae)
属名:ヤナギラン属(Chamaenerion)
和名:ヒメヤナギラン 英名:Dwarf Fireweed(アラスカ)

 

ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)は、アカバナ科のアカバナ属(Epilobium)に分類されることもありますが、近縁種ヤナギラン(Chamaenerion angustifolium)を含むヤナギランの仲間は、葉が互生(茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)し、花が総状につき、はじめは花柱が下向きに曲がるなどの点で他とは異なることから、ヤナギラン属(Chamaenerion)として分けられています。

 

ヒメヤナギランはヨーロッパ、アジア、北アメリカ、北極圏、亜極圏など、北半球の温帯地域から寒帯地域に広く分布するアカバナ科(Onagraceae)に属する多年草です。私も過去にパキスタンのバルトロ氷河のモレーン帯や、アラスカのデナリ国立公園などで観察しましたが、今回掲載させていただいたヒメヤナギランの写真は「グリーンランド」で観察したものです。

 

葉は無柄で長さが3~5cmほど、細長く先のとがった披針形をしており、生息地によって異なるようですが毛が生えているものや蝋質で無毛のものもあるそうです。グリーランドで観察したものは、僅かながら産毛のようなものが生えているのが確認できました。
花茎は近縁種ヤナギラン(Chamaenerion angustifolium)に比べて小型で、高さは20~50cmほど。全体に微細な毛が密集し、花茎がほんの少し粉白色を帯びているように感じるくらいです。
花柄は1~2cmと短く、鮮やかなピンク色の花弁が4枚つき、直径が3~6cmとヤナギランに比べて大きな花を咲かせます。また、4枚の花弁の裏側には先のとがった濃い紫色の萼片(がくへん)があり、正面から見ると4枚のピンク色の花弁の間から濃い紫色の萼片が見え、より印象的な色合いの花となります。

 

ヒメヤナギランは学名、和名以外にも各地で様々な名称、呼ばれ方があります。

 

北米のアラスカでは、伐採地や針葉樹林帯の山火事跡などでいち早く花を咲かせ、群生地を作り出すことから「Dwarf Fireweed」と呼ばれています。
今回掲載させていただいたヒメヤナギランの写真は「グリーンランド」で観察したものですが、グリーンランドではヒメヤナギランは象徴的な花とされ「niviarsiaq(少女)」と呼ばれています。

 

ヒメヤナギランは全ての部分が食用であり、ほうれん草の様な味がするそうです。
イヌイットの人々は生葉をサラダとしてアザラシとセイウチの脂身を食べたり、水に浸したお茶を飲んだりするそうで、イヌイットの人々にとって貴重な栄養を提供する植物であると、グリーンランドのガイドさんが説明されていました。

 

世界各地で観察したヒメヤナギランですが、観察する場所、場面で印象も変わってきます。私の大好きな氷河の風景とヒメヤナギランの群生する風景は忘れることのできない思い出の1つです。

グリーンランドの氷河とヒメヤナギラン