タグ別アーカイブ: Khunjerab National Park

ユキヒョウ、狩りの後の姿(パキスタン)

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (1)

ユキヒョウの鳴き声を聞きその姿を探していたガイドが戻ってきて、「おめでとう」と。彼が双眼鏡を向けた方向に見たものは、仕留めたばかりのアイベックス(しかも頭ガチ割れ)と片目を傷めたユキヒョウの姿。息を飲む瞬間でした。

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (7)

アイベックスの頭が割れている様子や切り立った崖の下にいたことから、かなりの高さからアイベックスとユキヒョウが落ちたことが想像されます。そこからこの岩のくぼみまでアイベックスを運んできたユキヒョウ。引きずった跡が残っていました。

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (8)

片目が腫れていて、動きが非常に不自由な様子でした。ユキヒョウもこの狩りで大きなけがを負ったようです。ガイドが、このユキヒョウは死んでしまうのではないか、と心配し始めました。骨が折れている可能性があり、もう次の狩りができないのでは、と。

厳しい肉食獣の野生の姿を目の当たりにした瞬間でした。

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (6)

それでも寝ている姿は猫らしい表情を見せてくれたりもしました。

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (5)

狩りで疲れている+お腹いっぱい=爆睡です。

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (2)

私たちのことはお構いなく、寝ています。

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (13)

スコープでも観察。この春にHobby’s Worldさんに相談して購入したばかりのKOWAのスコープにiphoneをつけて撮影しました。

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (11)

肉球が・・・。

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (10)

猫ですー。

ユキヒョウ Snow Leopard Pakistan Indus Caravan saiyu Travel (9)

ドキッとする、ユキヒョウの灰色グレーの目。

この後、ユキヒョウは一度起き上がると穴の奥のほうへと行ってしまいました。歩くこともままならない傷ついたユキヒョウの姿に動揺しました。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Observation :Apr 2022, KVO area, Gilgit-Baltistan, Pakistan

カラコルムの自然を守る – クンジェラブ峠清掃活動

カラコルムの自然を守る クンジェラブ峠清掃活動 save nature of karakorum saiyu travel (1)

この4月のパキスタンのユキヒョウツアーはサイティングにも恵まれ素敵な旅となりましたが、訪れたクンジュラブ峠付近はごみが散乱しマーモットがごみを巣穴に運ぶ姿もみかけました。ツアーご参加のみなさまのご支援を受け、アブル・ハーン氏とモルホン村のボーイスカウトが5月4日にクンジュラブ峠付近の清掃活動を行いました。行政へお願いしても迅速な対応は期待できず、パキスタン国内観光客のごみに対する意識改革にも時間を要します。今シーズンはあと2回の清掃活動を行う予定にしています。

ごみを巣穴へ運ぶマーモット

冬眠明けのお腹を空かせたマーモットがごみを食べる姿はつらいものでした。

カラコルムの自然を守る クンジェラブ峠清掃活動 save nature of karakorum saiyu travel (2)

モルホン村のコミュニティホールで清掃活動についての説明をするアブル氏。

カラコルムの自然を守る クンジェラブ峠清掃活動 save nature of karakorum saiyu travel (7)

中国との国境付近は観光客の最終目的地で一番ごみが多い場所です。標高4,600mを越える高所での作業は地元の人々の協力が強力が必要です。

カラコルムの自然を守る クンジェラブ峠清掃活動 save nature of karakorum saiyu travel (8)

カラコルムハイウェイ添いの溝を清掃。お菓子のパッケージ、ペットボトル、オムツ、マスクなどが落ちていました。どうして車窓からごみを投げ捨てることができるのでしょうか。

カラコルムの自然を守る クンジェラブ峠清掃活動 save nature of karakorum saiyu travel (3)

ごみ拾いに参加した子供。

カラコルムの自然を守る クンジェラブ峠清掃活動 save nature of karakorum saiyu travel (5)

集めたごみは、峠で焼却処分しました。

今年はシーズンの前と後の2回の清掃を行いたいと思っています。今なら美しい自然を取り戻すことができます。「世界の尾根」と称されるカラコルム山脈、パミール高原の自然と野生動物の環境を守るため、微力ですができるとことからやっていきたいと思います。

<ご支援のお願い>

西遊旅行の取り組み ”持続可能なツーリズムを目指して” カラコルムの自然を守る クンジェラブ国立公園 クリーンナップ募金のご案内

Image & text : Mariko SAWADA

※同じ記事をブログ「ディスカバーパキスタン」においても掲載しております。

(動画)ユキヒョウ・エクスペデイション Snow Leopard Expedition

パキスタン北部、クンジュラブ国立公園でのユキヒョウの観察をまとめた、ユキヒョウ・エクスペディション Snow Leopard ExpeditionのTour Vlogです。雪解けのクンジュラブ峠付近の斜面は、冬眠明けのオナガマーモットの姿、そしてそれを狙うアカギツネや猛禽類の姿、そして高地の草を求めて北上するヤクの群れが・・・そしてユキヒョウが。素晴らしい季節です。

Tour Vlog SNOW LEOPARD EXPEDITION SPRING2021

これまでの苦労が報われた、感謝の気持ちでいっぱいのツアーでした。

Videography : Mariko SAWADA
Observation : April 2021, Khunjerab National Park, Gilgit-Baltistan

ユキヒョウの親子 (クンジュラブ国立公園・北部パキスタン)

春のユキヒョウ・エクスぺディションも残り2日となった日の朝の出来事です。クンジュラブ国立公園を走行中、至近距離でユキヒョウを発見。母と子供2頭、計3頭のユキヒョウがアイベックスを食べていました。

もちろんユキヒョウの親子は我々を見て驚いて、崖を登っていきます。時間にして3分くらいでしょうか、誰もが息をのみ、シャッター音だけが響き渡りました。

Snow leopards sighted from the Karakoram highway

親子が視界から消えた後、角度を変えてこの親子を探し、この日は一日彼らを追うことにしました。

ユキヒョウの観察 パキスタン Snow Leopard observation Pakistan (1)

親子が食べ残したアイベックス。夕方、確実にここに戻ってきます。

ユキヒョウの観察 パキスタン Snow Leopard observation Pakistan (2)

目立たないところからユキヒョウを観察。

日中のユキヒョウの様子動画です。獲物から遠くないところにいなくてはならないし、いい日陰はないし・・・日が当たるようになると何度も移動していました。ずっと寝ているわけではありませんでした。

Snow leopards during the daytime

そしてお待ちかねの夕方です。お母さんユキヒョウが動き出しました。

Snow leopard at dusk

暗くなって見えるギリギリまで観察し、その場を去りました。2頭の子供たちは崖の上から様子をうかがっていました。

翌朝、アイベックスは見事なまでに「完食」されていました。

 

Videography & text :Mariko SAWADA

Observation : April 2021, Khunejrab National Park, Gilgit-Baltistan

Special Thanks : Hussain Ali Khan & Abul Khan, Khunjerab National Park

クンジュラブ峠のユキヒョウ(北部パキスタン)

ユキヒョウ クンジュラブ峠 Snow Leopard Expedition Khunjerab National Park (4)

パキスタン北部、中国との国境となるクンジュラブ峠付近で観察したユキヒョウの記録です。

クンジュラブ峠はパキスタンと中国との国境で「カラコルム・ハイウェイ」が貫いていますが国立公園でもあります。1960年~70年代の「カラコルム・ハイウェイ」建設時には多くのマルコポーロ羊やアイベックスが殺され、川沿いの木々が切られるなど自然破壊が起こりましたが、その後の植樹や野生動物の保護によりアイベックスやユキヒョウの数は回復してきています(マルコポーロ羊は戻っていません)。

ユキヒョウに襲われたヤク Injured Yak, attacked by Snow Leopard (1)

朝、カラコルム・ハイウェイを峠へ向けて登っていて見たのは、全身傷ついた、血だらけのヤクの姿。標高4,500m付近の斜面におり、明らかにユキヒョウに襲われたものでした。おそらく、ユキヒョウの狩りの最中に私たちが現れたため、仕留め切れずにその場を去ったのでしょう。

ガイドがすぐにヤクの持ち主に連絡をし、スストの家畜病院へと運ばれることになりました。このヤクは妊娠しており、ユキヒョウはこういった弱っているヤクや子供のヤクを狙うとのことでした。とは言っても、ここは国立公園の中。上部フンザの村でクンジュラブ国立公園に家畜を連れてきている人々は、ヤクが襲われるリスクを承知で連れてきており、国立公園内であることを理解しています。逆に、国立公園外で家畜が襲われるとユキヒョウに「復讐」することもあり、ユキヒョウの保護のためにはまだまだ政府やNGOの活動が求められる状況です。

ユキヒョウ クンジュラブ峠 Snow Leopard Expedition Khunjerab National Park (6)

ヤクを仕留めることができなかったユキヒョウは、きっとそばにいるはずです。みんなで捜索。

遠~くに2匹を発見。仲のいい2匹で、おそらく母親と2年目になる子供でしょうか。

Snow leopards Khunjerab national park top area 1

一旦、見失いましたが、再び岩の上にいる2匹を発見。

ユキヒョウ クンジュラブ峠 Snow Leopard Expedition Khunjerab National Park (2)

 

Snow leopards Khunjerab national park top area 2

ユキヒョウ クンジュラブ峠 Snow Leopard Expedition Khunjerab National Park (5)

日没時刻になりました。もう観察できるギリギリの暗さで、ユキヒョウも獲物を求めて移動していきました。

スストの町に降りると、今日襲われていた、あのヤクのニュースが入ってきました。もう回復の見込みがないとのことで、出産と同時にと殺されたとのことでした。そして子供も助からなかったと。あのまま放置していてもユキヒョウの糧となっていたヤクですが、何か、とても悲しい結果を聞いてしまいました。

 

Image & text : Mariko SAWADA

Observation : April 2021, Khunjerab National Park, Gilgit-Baltistan, Pakistan

Special Thanks : Hussain Ali Khan & Abul Khan, Khunjerab National Park

村に現れたユキヒョウ(北部パキスタン)

パキスタン北部、上部フンザのモルホン村に現れたユキヒョウの動画です。村人が「あそこにいる!」というけど、なかなか見つけられませんでした。

アイベックスを食べた後、川の対岸で寝ていたユキヒョウをモルホンの村人と観察。

ユキヒョウはどこ?Snow Leopard in Pakistan

午前にアイベックスを仕留めたユキヒョウは肉を食べて、残りを茂みに隠して岩場に上り寝ていました。ユキヒョウが起きた15時ごろの動画です。村人があちこちにいて、困っているユキヒョウです。

村人がいて困っているユキヒョウ Snow Leopard appeared in Morkhun Village

 

Video & text : Mariko SAWADA

Observation : Jan 2019, Morkhun Village, Gojar, Gilgit-Baltistan

Special Thanks to Mr.Sultan Gohar (Khunjerab National Park)

ヒマラヤアイベックス Himalayan Ibex( クンジュラブ国立公園、パキスタン)

アイベックス 冬のクンジェラーブ国立公園 Winter Khunjerab National Park (7)

12月下旬、パキスタンと中国の国境にあるクンジュラブ国立公園へ。クンジュラブ国立公園とその周辺の上部フンザの山には通年通してアイベックスが生息しますが、夏は標高が高い場所にいるので見ることは少なく、彼らが標高の低い場所におりてくる冬はカラコルムハイウェイから観察することができます。

アイベックス 冬のクンジェラーブ国立公園 Winter Khunjerab National Park (16)

カラコルムハイウェイの道路から、山の斜面を移動するアイベックスの群れを見つけました。

アイベックス 冬のクンジェラーブ国立公園 Winter Khunjerab National Park (8)

この地域のアイベックスは12月半ばから1月下旬にかけて低い場所に集まるといいます。オスがメスを追いかけまわしていました。

アイベックス 冬のクンジェラーブ国立公園 Winter Khunjerab National Park (10)

パキスタン北部のアイベックスは英語ではHimalayan IbexとかSiberian Ibexと呼ばれる亜種(Capra sibirica)。この中でも生息地域によってさらに分類されているようです。

アイベックス 冬のクンジェラーブ国立公園 Winter Khunjerab National Park (9)

立派な角のアイベックスです。案内してくれた国立公園スタッフが「あ、トロフィーだ」と。オスの角が38インチ(97センチ)越えると「トロフィーハンティング」の対象となります。ま、ここは国立公園の中なのでハンティングは認められていませんので安心ですが・・・。

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation : Khunjerab National Park, Pakistan

Reference : Mr.Sultan Gohar -KNP (Khunjerab National Park), WWF Pakistan

開放されたユキヒョウ、山へ帰る(クンジュラブ国立公園、パキスタン)

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (6)

2017年2月下旬、パキスタン北部の村ミズガルで家畜を襲ったユキヒョウが捕らえられました。家畜小屋に入り込みヤギ・ヒツジを殺した上、家畜小屋から出れなくなっていたところを捕獲したとのこと。

村人は、ユキヒョウを保護しなくてはならないことは理解するが、行政への「殺された家畜の補償」をもとめた話し合いがもたれ、捕獲されてから3日目に山へ帰されることになりました。

このユキヒョウはミズガルの村近くで2頭の子どもを連れている姿が目撃されているメスのユキヒョウでした。ユキヒョウは捕獲されたミズガルではなく、クンジュラブ国立公園へ運んできて放すことになりました。

ユキヒョウがミズガルで捕獲された話はすぐにニュースになりましたが、ミズガルは中国との国境に近いため、2017年現在外国人が行けない場所。偶然にもクジュラブ国立公園のデーにあるスタッフ小屋にいたところ、このユキヒョウが連れてこられました。

このユキヒョウを放す瞬間を見ようとテレビ局、政府関係者が集まり、車列を組んで移動です。デーから少しいった場所の山の斜面で放すことになりました。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (2)

檻が開けられても、ユキヒョウはすぐには出てきませんでした。出てこないので、その場にいたパキスタン人が「ローリー、ローリー」と呼びます。「ローリー」は2016年の秋までスストのチェックポストで飼われていたユキヒョウのこと。今はナルタルに行ってしまいましたが、クンジュラブ国立公園の人たちはユキヒョウを見ると「ローリー」と呼ばずにはいられないようです。

ユキヒョウが檻から顔を出して、最初にしたことは、雪を食べたこと。のどが渇ききっていたのでしょう。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (3)

ひとしきり雪を食べるとようやく前を見ました。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (4)

そしてあたりを見ます。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (5)

ゆっくりと檻から出てきました。この瞬間、関係者より拍手が起こりました。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (7)

自由になったミズガルのユキヒョウ

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (9)

3日間の拘束で毛並みが乱れているし、家畜の血が体についたりして汚れていました。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (10)

立ち止まっては雪を食べます。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (11)

こちらのほうを見ました。弱っているのか、動きはゆっくり。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (12)

ひとしきり雪を食べると茂みの中へ入っていきました。まだこちらのほうを見ています。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (13)

岩の上に乗って休憩。ものすごいカモフラージュです。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (14)

しばらくすると、ふたたび山を登り始めました。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (15)

開放されたものですが、野生のユキヒョウが歩いている姿を、初めて見ました。

ミズガルのユキヒョウ パキスタン free a Snow Leopard from a cage Pakistan (17)

そしてまた座りました。対岸の山の斜面を見ています。そこにはアイベックスの群れがいました。

その後、このユキヒョウはじっとしたままでした。私たちも、このユキヒョウが無事にミズガルの2頭の子どものもとに戻れることを願い、その場を後にしました。

翌日、スタッフが最後にユキヒョウがいた付近を見に行きましたがもうその姿はありませんでした。そして開放してから3日後、このユキヒョウが2頭の子どもと一緒にいるのがミズガルで目撃されたと、国立公園のスタッフから電話がありました。

後日談:このユキヒョウはその後再び、ミズガルの家畜を襲ったため村人により殺されました。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation : Feb 2017, Khunjerab National Park, Pakistan

Reference : Mr.Sultan Gohar -KNP(Khunjerab National Park), Mr.Falman Razah -KVO ( Khunjerab Villager Organization), Wildlife Department of Pakistan

 

パキスタンの野生動物保護とハンティング事情

パキスタンのアイベックス (5)

ヒマラヤアイベックス Himalyan Ibexの親子

いまどきハンティング?と、私には考えられないのですが、パキスタンのハンティン グと 野生動物保護について考える機会がありましたのでご紹介したいと思います。

10月上旬、デオサイ高原国立公園 Deosai National Parkとクンジュラブ国立公園Khujerab National Parkへ行って来ました。デオサイ高原では、苦労もしましたが貴重なヒマラヤヒグマ Himalayan Brown Bearに出会うことができ、クンジュラブ国立公園ではアイベックスの群れをあちこちでみかけました。

パキスタンのアイベックス (2)

国立公園のスタッフによると、野生動物の個体数は確実に増えているとのこと。パキスタンのワイルドライフもなかなか…と思ったのですが、よ~く話を聞いていると、単なる自然愛護や保護の話ではありませんでした。

クンジュラブ国立公園は、「世界の屋根」パミール高原の南部に位置する国立公園。 公園の中央を「カラコルム・ハイウェイ」が貫通し、中国とパキスタンの国境となる「クンジュラブ峠」を含みます。1975年に国立公園が設立されたとき、この公園となった地域はワヒ族の土地でした。このことで土地を失うことになったワヒ族の人々は、村民による議会Khunjerab Villager Organization(KVO)を設立。事実上、国立公園は違法ハンティングの取り締まり以外のすべての事項に村民議会(KVO)の承認が必要となりました。また、スストなどワヒ族の暮らす7つの村が位置する地域は、「KVO保護地域」としてKVOの管理下に置かれることになりました。

ここでハンティングについてです。現在、クンジュラブ国立公園内でのハンティングはもちろん認められていません。また、KVO保護地域でも「許可された狩猟」を除く一切の狩猟は禁止されており、10年ほど前に最後の違法狩猟が摘発され厳しく罰せられた事件以来、違法ハンティングはないとのこと。

この「許可された狩猟」というのが「トロフィーハンティング」。肉や毛皮のためではなく、合法に、趣味として「大型野生動物を撃つ」というものです。剥製などを「トロ フィー」として持ち帰ります。

毎年10月半ば以降に、トロフィーハンティングの許可証がオークションされます。2014年の価格は、アイベックスなら5000ドル(外国人ハンター)か1500ドル(パキスタン人ハンター)、ブルーシープだと8500ドル(外国人ハンター)か5000ドル(パキスタン人ハンター)くらいとのこと。KVO保護地域では、2014年度はアイベックス18頭、ブルーシープ2頭、総数20頭のハンティングが許可されました。

この許可証による収入は、パキスタンの山奥の村にとっては 非常に大きなものです。KVO 保護地域で「トロフィーハンティング」が始まったのは、1993年のことです。この時、狩猟が許可された頭数は1頭。そのころから村人がトロフィー・ハンティングを許可される個体数を増やすために「野生動物の保護」を考えるようになったのだそうです。

トロフィー・ハンティングの対象となる動物の数は、毎年、AKRSP, WWF, Nationa Park, KVO, Wildlife Department Gilgit-Baltistanなどの機関が調査を行い、その結果で割り当てを決めることになっているといいます。野性動物の数が多ければ多いほど、トロフィーハンティングの数が増える=収入が増えるのです。

1993年に1頭から始まったトロフィーハンティングは、2014年には20頭(アイベックス18頭、ブルーシープ2頭)に。このシステムが始まってから違法ハンティングに対する取締りが厳しくなり、アイベック スや ブルーシープの数は確実に増えているといいます。

2014年度のKVO保護地域の調査に よる個体数は、(クンジュラブ国立公園の野生動物個体数は含みません)アイベックスが2300頭、ブルーシープが270頭とのことでした。

「トロフィーハンティング」に差し出された20頭の犠牲が、2000頭を救う…。なんとも切ないですが、地元の人々の収入となり理解を得て、進められる野生動物保護のひとつの形なのでしょうか。

次に、この「トロフィーハンティング」により得られた収益の使い道に関してです。初めての収入を得たとき、365人の村人に5000ルピーづつ分配したのだそうですが、みんなすぐに使ってしまい、良い結果が出ませんで し た。そのため、その後、トロフィーハンティングの収入の有益な利用を目指す目的でKVO Multi-Purpose Cooperation Societyを設立し、60%はKVOの見張りやスタッフ、調査費用・給与に当て、40%は教育・福利厚生に使うことになりました。

具体的な事例としては、高校のないこの地域の学生を就学させるために、ギルギットに土地を買い、2008年に女学生寮が完成しました。2015年現在70人の女学生が通っています。また、毎年貧しい40家族の医療保険代をサポートしたり、救急搬送、そしてビジネスを始めたい人へ低金利での貸付も行っています。

さて、この「トロフィーハンティング」ですが、これも厳しい条件で行われています。

パキスタンのアイベックス (3)

まず、ハンターは「1発」で仕留めなければいけないこと。何回も撃っていいものではありません。原則、はずしたらそこまでです。そして、狙っていい対象は、アイベックスなら角が38インチ(97センチ)以上、ブルーシープなら角が22インチ(56センチ)以上の固体。このページの写真の中にいるアイベックスたちはすべて対象外です。

なぜかと理由を聞くと、角の大きな固体は年寄りで、もう繁殖能力もないのでハンティングの対象としても良いと。自然に死ぬくらいなら、収入になったほうがいいと。

これも、かなり切ない話です。

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation : Oct 2015, Khunjerab National Park, Pakistan

Reference : 情報はMr Mahabat karim, Office Manager of Khunjerab Villagers Organization (KVO),Mr.Sultan Gohar, Khunjerab National Park (KNP)によるものです。

パキスタンのユキヒョウ ローリーの話

Loli the Snow Leopard -Khunejrab National Park (1) パキスタンのユキヒョウと、クンジュラブ国立公園のユキヒョウ、「ローリー」の話です。(この記事のユキヒョウの写真は、下記の国立公園提供のビデオを除いて野性の状態のものではありません)

パキスタン北部、中国との国境を接するクンジュラブ国立公園では時々「ユキヒョウ」の話題がでてきます。ユキヒョウはヒマラヤ山脈、カラコルム山脈、ヒンドゥークシュ山脈、パミール高原に暮らすヒョウで、寒い環境に適した長い毛で全身が覆われています(冬はさらに毛が長くなるといいます)。
クンジュラブ国立公園ではアイベックスなどの野生動物を捕食して暮らし、冬場にはカラコルム・ハイウェイ付近まで降りて来るのが観察されます。

下記のビデオは2015年3月25日にカラコルム・ハイウェイ上にて、クンジュラブ国立公園スタッフのスルタン・ゴハールさんによって撮影されたビデオ(クンジュラブ国立公園より提供)

9年ほど前だったでしょうか、国立公園の事務所に「レオ」という子供のユキヒョウがいて中国との国境を越える時の楽しみだったのですが、アメリカの動物園へ行ってしまいました。

そして3年ほど前、再び子供のユキヒョウが凍った川で溺れているところを助けられました。6ヶ月くらいと推定されるメスの子供のユキヒョウは、「ローリー」と名付けられスストの国立公園のチェックポストのそばの檻で3年目を迎えました。

Loli the Snow Leopard -Khunejrab National Park (3)

ローリーを助けたファルマン・ラザーさん、今でも小さい時のローリーをあやすように近づきます。ローリーも「ゴロゴロ」とはいきませんが「ガウガウ」といいながらすりすりしています。

Loli the Snow Leopard -Khunejrab National Park (5)

国立公園スタッフに甘えるローリー

Loli the Snow Leopard -Khunejrab National Park (6)

毎日3キロの肉をもらいます。肉は、羊・ヤギやヤクなど。

Loli the Snow Leopard -Khunejrab National Park (7)

ローリーはいつまでこの状態なのか、野生に戻ることは出来ないのか。

国立公園のスタッフによると「レオ」がアメリカから間もなく帰ってくるので、レオとローリーが暮らす「リハビリテーション施設」をナルタル谷(ギルギットの近く)に作り、そこで繁殖を試みる・・・と先のプランを教えてくれました。早ければこの冬に、といいますが、自然環境が変るので反対する意見もあります。そしてここはパキスタン、筋書き通りには行きません。

その後、ローリーは2016年の冬にナルタル谷へと移動しましたが、レオはアメリカから帰ってくることはありませんでした。

最後に、小さいころの「レオ」の写真です。クンジェラーブ国立公園のスルタン・ゴハールさんと。(写真はクンジェラーブ国立公園提供)

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野性の状態ではないことは残念ですが、それでも、大型ネコ科動物ファンにはたまりません。

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Video, Photo of Leo & Sultan Gohar : Credit to Gohar -KNP(Khunjerab National Park)
※ビデオとレオの写真はクンジェラーブ国立公園提供のものです。

Observation :**Captive condition in cage** Oct 2015, Khunjerab National Park, Pakistan

Reference : Mr.Sultan Gohar -KNP, Mr.Falman Razah -KVO, Wikipedia( JP)