タグ別アーカイブ: トルコ

ファッション・リイマジン

(C)2022 Fashion Reimagined Ltd

イギリス・ウルグアイ・ペルー・トルコ

ファッション・リイマジン

 

Fashion Reimagined

監督: ベッキー・ハトナー
出演: エイミー・パウニー ほか
日本公開:2023年

2023.8.2

英・若手デザイナー、理想を追い求めてウルグアイ、ペルー、トルコへ

2017年4月、英国ファッション協議会とVOGUE誌は、ファッションブランド「Mother of Pearl」のクリエイティブ・ディレクターを務めるエイミー・パウニーをその年の英国最優秀新人デザイナーに選出する。

環境活動家の両親を持ち、大量消費が当たり前だった当時のファッション業界に危機感を抱いていたエイミーは、新人賞の賞金10万ポンドをもとに、「Mother of Pearl」をサステナブルなブランドに変革することを決意。デビューまで18カ月というタイムリミットの中、エイミーと仲間たちはさまざまな困難に遭遇しながらも、理想の素材を求めて地球の裏側まで旅をする。

「ファッションをひとつの国に見立てると世界で3番目に二酸化炭素排出量が多い」

「ひとつの服ができるまでの過程で、だいたい少なくとも5カ国を経由し、消費者はそれを知らない」

など、わかりやすくかつインパクトある事実を提示しながら、エイミーと彼女の仲間たちの「理想」を追い求める旅は始まっていきます。

最初の目的地は、ウルグアイのモンテビデオ。ミュールシング(ウジ虫の発生を防ぐために無麻酔で子羊の臀部をナイフやハサミで切り取る処置)をしていない、かつ、信頼できる生産者を探した末にたどり着いた国です。

しかし、生産者のペドロ氏は信頼に値するものの、ウルグアイでは紡績が行われていない(かつては行っていたが大量生産国の影響によって廃業した)ことや、ロット数の問題がエイミーたちの頭を悩ませます。そして、隣国のペルーや、世界有数の綿花生産量を誇りイギリスに最も近いトルコを訪れます。

最近ではマクドナルドもポテトの生産者の笑顔をトレーに乗ってくる紙で紹介している通り、トレーサビリティ(生産地・関与社が追跡できること)やサステナビリティ(持続可能であること)は世の中の大きな関心のひとつです。

僕自身も消費者としてなるべく「本当に買いたいと思ったものを、必要なだけ買いたい」と思ったり、映画・映像制作者として「もしも映画・映像が野菜だとしたら、皮・茎・根まで全て食べてもらえるような生産・出荷・販売の仕方をしたい」と思ったりすることが最近増えてきました。

本作で描かれているエイミー・パウニーさんの旅は、そうした理想を掲げ続けることの大切さと、実際にそれを行動に移す勇気、そして「仲間」の大切さを教えてくれるものでした。特に、ウルグアイのペドロ氏が、リリースにあわせてはるばるロンドンまで旅してきた光景には感動しました。

ファッションを楽しむことと、サステイナブル(持続可能)であることの両方を叶えるための旅『ファッション・リイマジン』は、9/22(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。そのほか詳細は公式ホームページをご確認ください。

 

読まれなかった小説

42b6dde6ca3244a0(C)2018 Zeyno Film, Memento Films Production, RFF International, 2006 Production, Detail Film,Sisters and Brother Mitevski, FilmiVast, Chimney, NBC Film

トルコ

読まれなかった小説

 

Ahlat Ağaci

監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー、ハザール・エルグチュルほか
日本公開:2019年

2019.11.13

読まれない小説の価値とは?―トルコの巨匠が描く、うまくいかないことの美点

舞台はトルコ北西部。作家志望の青年シナンは、大学を卒業してからトロイ遺跡近くの故郷・チャナカレ県チャンへ戻り、初めての小説を出版しようとする。知人を辿って出資を募ったり、地元の有名作家に議論を持ちかけたりと奔走するが、どれも空回りに終わってしまう。

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シナンの父・イドリスは引退間際の教師だ。ギャンブルにおぼれている父を、シナンは疎ましく思っている。自分の小説の最も良き理解者がイドリスであるなどとは、シナンは考えもしない。

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父と同じ教師になり平凡な人生を送ることに疑問を抱きながらも、シナンは教員試験を受け、現状を好転させようと葛藤しながら日々を過ごす。

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作家志望の青年の心象風景を描いた本作は、物語の本筋とはさほど関係ないショットや想像上の光景が唐突にドラマ展開の中に挿入される点が特徴的です。一見、物語の理解を妨害するような描写でありながらも、映画鑑賞後に町中や身の回りを見渡してみると、ある面白みをじわじわと感じさせてくれます。それは「自分が世の中を見ている通りに、他人は世の中を見ているとは限らない」ということです。

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私が西遊旅行に勤めているときに、同じツアーに複数回添乗することがしばしばありました。社歴が浅い頃は、同じツアーなのだから同じように案内すれば大丈夫だろうと心のどこかで思っていましたが、それは大きな間違いであることに追々気付かされました。

前のツアーの参加者の方にとってなんでもない場所や景色でも、別の機会にはマジカルな光景となる可能性がある。あるいは、前のツアーで好評だった場所や景色が、天候・時間などといったタイミングの兼ね合いやツアーの流れによって、添乗員やガイドさんがうまく演出しないと楽しんでもらえない可能性がある。自分がごく普通だと思っても、参加者の方は美しい・おいしい・スペシャルだと思っていることがある・・・・・・そういったことが、添乗回数を重ねる度にわかってきました。

つまり、あたり前のことではあるのですが、人の頭の中にはそれぞれ違う脳が入っていて、自分が他人の脳で考えることはできない(他人のことを考えるには、自分の脳で他人のことを考えるしかない)ということです。

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本作には、3時間強という時間の中に膨大な量の哲学的会話がおさめられていますが、後味としてはまるで一枚の絵画を見たかのような印象です。トルコ・チャナカレ県の紅葉・雪・霧など美しい景観もあいまって、青年のうまくいかなさの中に隠れている前向きなパワーが、時間をかけて詩的にじっくりと浮き彫りにされていきます。

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『読まれなかった小説』は、11/29(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。(2014年のカンヌ映画祭で最高賞を受賞した過去作『雪の轍』もぜひあわせてチェックしてみてください)

雪の轍

poster2(C)2014 Zeyno Film Memento Films Production Bredok Film Production Arte France Cinema NBC Film

トルコ

雪の轍

 

Kis Uykusu

監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:ハルク・ビルギナー、メリサ・ソゼンほか
日本公開:2015年

2019.11.6

雪深きカッパドキアで、心の奥底にダイブする

トルコ、世界遺産のカッパドキアに佇む「ホテル・オセロ」。元舞台俳優・アイドゥンはホテルを運営しながら、親から受け継いだ膨大な遺産をやりくりしながら何不自由なく暮らしている。しかし、若く美しい妻・ニハルとの関係はうまくいっておらず、一緒に住む妹・ネジラともぎくしゃくしている。さらに、父の代から家を貸しているイスマイルの家賃滞納問題から逆恨みを買い、息子のイリヤスはアイドゥンの車に石をぶつける。兼ねてから慈善事業に興味を抱いていたニハルはイスマイル家族に憐れみを持つが、その考えの違いからアイドゥンと対立する。

やがて季節は冬になり、カッパドキアの地に雪が降り積もっていく。雪深い景観に呼応するかのように、アイドゥンを中心にした人間関係も、かねてから積もってきた軋轢が目に見える形で現れてくる・・・・・・。

本作のロケ地であるカッパドキアは、中東でも有数の観光地です。もう10年以上前になりますが、私は映画で描かれているのとちょうど同じぐらい雪が降り積もっているときにカッパドキアを訪れたことがあります。洞窟ホテルに宿泊しましたが、暖炉であたたまりながら他の宿泊者と話したり、窓の外の雪をただただ眺めたのをよく覚えています。

奇岩群を目にし、洞窟ホテルに泊まり、降り積もった雪の中を寒さにぐっと堪えながら歩く。もし冬のカッパドキアに旅をすれば、そうした経験をする可能性が高いでしょう。

旅には人を変える力があります。本作では、議論の応酬や迷いの衝突によって「心の中を巡る旅」が表現されています。奇岩群を見ることは、自分の奇妙な部分を見つめること。洞窟ホテルに泊まることは、自分の心の奥底を覗き込むこと。雪の中を歩くことは、まだ見ぬ自分に踏み入っていくこと・・・・・・人によって化学反応は異なりますが、旅におけるひとつひとつの行動は、日常生活とは違った人生の方向性を私たちにもたらしてくれます。白銀のカッパドキアでの深い思索と静かな気づきの瞬間を描いた『雪の轍』は、踏み出せばくっきりと足跡が残るような新鮮なイメージにあふれた、深く降り積もった新雪のような一作です。

 

洞窟ホテルに4連泊 カッパドキアゆったりハイキング

アナトリア高原が生み出した奇跡の奇岩群カッパドキア。ハイキングではカッパドキアの谷に分け入り、次々に現れる奇岩の造形美や洞窟住居が織り成す景観をお楽しみいただきます。

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カッパドキア

トルコ、アンカラ東南部にある世界遺産カッパドキア。まるで地の果てを思わせる不思議な奇岩群がひしめきあう風景は、思わず息を飲むほどの迫力です。古代噴火によって堆積した火山灰や岩が長い歳月をかけ浸食されて生まれた風景です。初期キリスト教の時代には多くのキリスト教徒たちが迫害や弾圧を逃れ、この地下に隠れ住んだといわれ、今も残る岩窟教会がその歴史を物語っています。

猫が教えてくれたこと

6d5bc78ce070cb0a(C)2016 Nine Cats LLC

トルコ

猫が教えてくれたこと

 

Kedi

監督:ジェイダ・トルン
出演:イスタンブールの猫たち
日本公開:2017年

2019.5.8

ネコは全てお見通し―ネコ目線で描く
大都市・イスタンブールの人間模様

ヨーロッパとアジアの文化をつなぐトルコ・イスタンブール。「文明の十字路」とも呼ばれるこの街で暮らす野良猫たちは、食料をもらったり寝床を与えてもらうかわりに、人々に生きる希望や癒やしを与え、自由気ままに暮らしている。映画クルーは猫目線のカメラアングルを多用して、猫たちを追いかけながら、イスタンブールに暮らす人々の気持ちと都市の輪郭を明らかにしていく・・・

ペットを飼っている方なら当たり前のことかもしれませんが、人間は動物を飼育するだけでなく、人生において大切なことを教わることがあります。
「落ち込んでいる時、猫に元気をもらった」
「この猫がいなかったら、自分はどうなっていたことか・・・」
というようなコメントが、本作にも多く出てきます。

本作に収められているコメントで特にユニークなのは、「神の意志」が反映された動物として、猫を見ている人がイスタンブールをには多いことです。たしかに、古代エジプトではバステト神と呼ばれる猫の女神がいましたし、日本にも猫を祀っている神社がいくらかあります。

なぜ神として祀られるのか?
そうした「神性」のヒントとなるような猫の行動が、本作ではとらえられています。

人間の気持ちをわかっているような行動、距離のとり方、そして時には空洞となって人間の気持ちを受け止める包容力・・・
猫を愛する人がいつの時代も止まない理由が、本作をみるとわかります。

私は一度イスタンブールを訪れたことがありますが、やはり町中で猫の写真を多く撮ったのをよく覚えています。猫目線で切り取られたイスタンブールということで、現地に行ったことがある方も、新鮮な旅情を掻き立てられるような景観が映画の中に広がっています。

アメリカでは1館の公開からスタートして130館まで拡大し、異例のヒットを記録した本作は、気軽に鑑賞できつつ、思いがけない切り口で深い感動を与えてくれる一作です。

古都イスタンブール滞在

古都イスタンブールに4連泊。
ビザンツからオスマンまで、帝国の興亡を見つめてきたこの街に滞在し、 刻まれた歴史の中を歩く。

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イスタンブール

ボスポラス海峡を隔て、アジアとヨーロッパにまたがるトルコ最大の都市。首都はアンカラに遷都されましたが、現在でもトルコの文化、商業の中心です。主な見所はヨーロッパ側にあり、金角湾を挟み新市街と旧市街に分かれます。

シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語

poster2 (1)(C)Yorgos Mavropsaridis

トルコ

シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語

Sivas

監督:カアン・ミュジデジ
出演:ドアン・イスジ、ハサン・オズデミルほか
日本公開:2015年

2017.3.22

闘犬・シーヴァスと負け犬少年・アスランの言葉なき友情

舞台はトルコ・東アナトリア地方のある村。11歳の少年・アスランは、学芸会で演じられる白雪姫の配役で王子役を希望するものの、村長の息子・オスマンがコネであっけなく役をとってしまい苛立ちを隠せません。その上、気になっている女の子が白雪姫を演じることになってしまいます。そんなある日、闘いに負けて瀕死の状態で放置されている闘犬・シーヴァスをアスランは連れて帰ります。小柄なためまわりから軽んじられているアスランは、猛々しいシーヴァスとともに過ごす時間にのめりこんでいき・・・

トルコでは闘犬の文化があるのかと思い映画を見進めていくと、非合法であることが明らかになってきます。女性がほとんど登場しなく、男性社会であることも映像から伝わってきます。また、直接は描かれていませんが、マスメディア・インターネット・SNSを統制していることで知られるトルコの権力構造が、闘犬に対する取り締まりや主人公家族と警察のやりとりの中で見えてきます。

海外を旅する時、いいことばかりを目にする訳ではなく、貧困や目をつぶりたくなる場面に遭遇することはしばしばあります。ツアーバスの乗降口に物乞いが集まってきたり、移動中にスラム街が見えたり、ガイドさんからその国の負の面について説明を受けたことがあるという方も多くいらっしゃるのではないかと思います。楽しい思い出に埋もれてしまいがちですが、そうした辛い・悲しい光景も、記憶の中に残っていると人によっては何かアクションを起こすときの原動力に変化することがあります。

映画も、楽しむものであると同時に(特にドキュメンタリーは)観客に悲しみを伝える役割があります。この映画は、どちらかというと暗く、弱い主人公・アスランや社会的弱者の家族たちが、権力構造をなんとかはねのけようとする姿が描かれています。鑑賞のタイミングを選ぶ作品かもしれませんが、アスラン少年の苦悩の様子や飄々とアスランに従う闘犬・シーヴァスの生き様は、見た人に困難を乗り越える強さを示してくれます。

迫力満点の闘犬シーン(犬同士の衝突音や勢いは驚きます)、眼力のあるトルコ人少年の名演技もぜひお楽しみください。

イン・ディス・ワールド

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パキスタン・イラン・トルコ

イン・ディス・ワールド

 

In This World

監督: マイケル・ウィンターボトム
出演: ジャマール・ウディン・トラビ、エナヤトゥーラ・ジュマディンほか
日本公開:2003年

2016.11.30

ペシャワールからロンドンへ・・・
国境の壁を乗り越える若きアフガン孤児の意志

パキスタン北西辺境州の州都・ペシャワールの難民キャンプで育ったアフガン人の少年・ジャマールと従兄弟・エナヤットは、より良い未来を求めて陸路でロンドンを目指ことになります。エナヤットの父親が密入国業者の力を借りて息子を親戚のいるロンドンに向かわせようとして、ジャマールは英語が少し話せるためエナヤットに同行することになったのです。信頼してよいかどうかわからない密入国業者だけを頼りに、常に危険と隣り合わせの6400kmの旅路が始まります。

ドキュメンタリータッチで撮られたこの作品は、製作陣による綿密なリサーチをもとにしたフィクションです。多くの亡命者たちが通過するクエッタ・テヘラン・イスタンブールといった要所や実際の国境警備員たちが映っているので、まるでジャマールとエナヤットのカバンにこっそり潜んで旅を見守っているかのような、緊迫したリアリティ溢れるカットが次々と映し出されます。また、サルコジ元大統領によって閉鎖されたにサンガット(フランス北部の港街・カレー近郊)赤十字難民センターの貴重な映像もおさめられています。

映画の大部分を占めるジャマールたちの移動風景(ある時は家畜と、ある時は穀物と・・・)は苦難の旅路の様子ですが、ずっと頭の奥底に眠っていた旅の車窓を思い出してしまうのは私だけではないはずです。移動風景だけでなく、路地裏で遊ぶ子供達たちや街の雑踏の音など何気ない描写が幾重にも重なって、イギリスにたどり着くという一点の光を求めて旅をしているジャマールの複雑な心の中に案内してくれます。

この物語の最も美しい点の一つは、ジャマール少年が物語を語るのがうまいという設定にあると私は思います。物語がどんな内容なのかは見てからのお楽しみですが、なぜ歌が生まれたかという話や、壊れた時計に蚊の死骸が入っている話などを唐突に話し出します。一度私は日本にたどり着いた難民を支援している団体を取材したことがありますが、多くの難民たちが「自分にこんなことが起こる(難民になる)とは夢にも思わなかった」と口にするという話を聞きました。きっとジャマール少年は自分の身に起きたことを物語のように思える強い心の持ち主で、そのおかげで辛い旅路にも関わらずどこか美しい感覚を観客に味わわせてくれるのだと思います。

中東からヨーロッパへの遠い遠い道のり、少年の持つ純粋さ・力強さを体感したい方にオススメの映画です。

ラッチョ・ドローム

latcho drom

インド・トルコ・エジプト・フランス・スペイン

ラッチョ・ドローム

 

Latcho Drom

監督:トニー・ガトリフ
出演:タラフ・ドゥ・ハイ・ドゥークス、チャボロ・シュミットほか
日本公開:2001年

2016.6.8

流浪の民たちの道筋を辿る旅へ思わず出たくなる、至幸の映像詩

自身がロマ(北インドのロマニ系に由来するジプシー)のルーツを持つアルジェリア生まれのトニー・ガトリフ監督は『ガッジョ・ディーロ』『トランシルヴァニア』など他にも多くのロマに関する映画を撮っていますが、その中でも特に代表作と言われているのが本作『ラッチョ・ドローム』です。題名はロマ語で「良い旅を」という意味で、映画はロマが元々住んでいたと言われるインド北西部のラジャスタンからスタートし、スロヴァキア、トルコ、ハンガリー、エジプト、南フランスなどを経て最終的にスペイン・アンダルシア地方にたどり着きます。各地で奏でられる音楽をひたすら映し出すというドキュメンタリーに近いタッチで描かれていますが、本作がドキュメンタリーと必ずしも言い切れないのは、その土地土地の日常の様子や街の音、そして音楽に聞き入る人々が醸しだす熱気が力強い物語を紡いでいる点にあります。特にジョニー・デップが「世界一好きなバンド」と公言しているルーマニアのタラフ・ドゥ・ハイドゥークスが地元のクレジャニ村で老若男女を巻き込んで演奏する風景や、ジプシー・スウィングの大御所チャボロ・シュミットが南フランスのサント・マリードゥ・ラ・メールの祭りの中で演奏する映像は圧巻です。私自身、この映画の影響でルーマニア・ハンガリー・ポーランド・南フランス・トルコなどを旅しました。

ジプシー音楽を知ってみたいという方、一気に魅力的な場所を多く見れるのでどこに旅行に行こうか考えていらっしゃる方におすすめの1本です。

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イスタンブール

ビザンツからオスマンまで、帝国の興亡を見つめてきた街。ボスポラス海峡を隔て、アジアとヨーロッパにまたがるトルコ最大の都市。首都はアンカラに遷都されましたが、現在でもトルコの文化、商業の中心です。