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判決、ふたつの希望

46afd7e15996fdc6(C)2017 TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL – EZEKIEL FILMS – SCOPE PICTURES – DOURI FILMS
PHOTO (C) TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL

レバノン

判決、ふたつの希望

 

L’insulte

監督:ジアド・ドゥエイリ
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャほか
日本公開:2018年

2018.10.10

レバノン社会に山積した負の感情が、希望に生まれ変わる時

レバノンの首都・ベイルートで自動車修理工場を営むキリスト教徒のレバノン人・トニーと、住宅補修に従事するパレスチナ難民・ヤーセル。水漏れを直しにきたヤーセルの対するトニーの粗野な対応は、ヤーセルの「クズ野郎」という一言を招き、トニーはそれに対して謝罪を要求する。

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そして、二人のこの些細な口論は裁判に発展してしまう。両者の弁護士が論戦を繰り広げメディアの報道も加わり、事態はレバノン全土を巻き込む騒乱へと発展していく・・・

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旅をすることで素晴らしい歴史・文化を知ったり、景観を眺めたり、人々と交流したりすることは私たちの感性に大きな影響を与えてくれます。しかし、旅をするだけでは感じ取るのが難しいこともあります。その一つは、人々の本音です。

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最近私は編集作業のため経済制裁中のイランに行き、様々な困難や国を出ようとしている人々の話を聞きましたが、心の中にある不安や記憶というのは基本的に「潜んでいる」ものです。町を歩いたり、ひとときの交流の中で何かそうしたことがキャッチできるかと言うと、なかなか難しいといえるでしょう。

本作は、日本人にはなかなか踏み入れがたいパレスチナ問題の実像を、感情面からわかりやすく私たちに示してくれます。「この映画を見ればパレスチナ問題がわかる」というわけでは決してありません。しかし、MeTooムーブメントのようなSNSによる急速な情報の拡散、そして同調の気運が日常的になった私たちに、本作はパレスチナ問題が決して理解不能ではないということを気づかせてくれます。

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わからなく掴み難い状態はそのままで、なんとなく「こういうことか」と思わせてくれる。それだけでも理解促進において大きな一歩ではないかと私は思います。

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そして何より本作の価値は、暗くなりがちな題材を、邦題にある通り「希望」を以って描いている点にあります(原題は「侮辱」の意)。パレスチナ問題に対して様々な立場が渦巻く中で、勇気と信念がある制作者だけがこうした作品を作ることができます。それは決して映画の制作者にとってだけ重要なものではなく、生きるパワーとして観客に伝わるものなのではないかと思います。

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全国で絶賛上映中の『判決、ふたつの希望』、上映詳細等は公式ホームページからご確認ください。

レバノン一周

レバノンが誇る5つの世界遺産 レバノン杉の森や数々の歴史遺産が残るレバノンを巡る8日間

beirut

ベイルート

レバノンの首都で、経済・政治の中心地。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。

キャラメル

149985_01(C)Les Films des Tournelles – Les Films de Beyrouth – Roissy Films – Arte France Cinema

レバノン

キャラメル

 

سكر بنات

監督:ナディーン・ラバキー
出演:ナディーン・ラバキー、ヤスミン・アル・マスリーほか
日本公開:2009年

2016.12.14

「中東のパリ」レバノン・ベイルート
色とりどりの憂鬱を持った女性たちの物語

レバノンの首都・ベイルートにあるエステサロンで、おいしそうなキャラメルがぐつぐつと煮られているシーンからストーリーが始まります。

エステサロンの経営者で妻子持ちの恋人がいるラヤール(監督のナディーン・ラバキーが演じています)、恋人との結婚を控えたニスリン、男性が苦手なリマ、女優志望の中年主婦ジャマル、老いた姉と住むローズ・・・20代の若者から年輩まで、恋愛から老いの悩みまで、幅広い年齢の女性たちそれぞれの憂鬱に焦点をあてながらも常にいくらかの希望を携えて物語は進んでいきます。

この映画を見て初めて知りましたが(むしろ特に男性にとっては、見るまで知らなくてあたり前かもしれませんが)、中東の国々ではキャラメルがムダ毛処理のために使われることがあるそうです。甘い砂糖をぐつぐつと煮てキャラメルをつくり、苦すぎるコーヒーを飲むように顔を歪めてそのキャラメルを使う・・・この小さくも意味深い文化のように、レバノン人女性たちのほろ苦くも美しい生き方が映し出されていきます。

この映画の特筆すべき点は、1975年から1990年まで続いたレバノン内戦のことや内戦中にベイルートが東西に分裂したことに一切言及していないことです。

「中東」という言葉や中東諸国の国名は、いまだなお多くの日本人に戦争やテロなどネガティブな事柄を連想させる言葉にとどまっています。世界には道を歩いていると撃たれたり拉致されてしまう場所も確かにあります。距離や関心の問題でそうでない地域にもそのイメージが波及して、偏見が生まれてしまうことは避けがたいかもしれません。

たしかにベイルートでもテロは過去にありました。この物語はそうした事実がさもないかのように進んでいきます。無視しているということではなく、カメラのレンズで焦点を絞るように、レバノンに暮らす女性たちの悩みや希望に焦点を合わせているのです。多くの映画がベイルートを危険な街として描いてきた中で、この作品はそれにつられず真摯に人間そのものを描ききり、キリスト教とイスラム教が共存してきた歴史や、コーヒー占い(コーヒーの沈殿物の模様で運勢を占います)など庶民の文化をさりげなくストーリーに散りばめています。

この映画を見れば明らかですが、ベイルートの街でも日本と同じように普通の人々が普通の日常を送っています。その事実を映画を以って世界中の人々に知らせることができるというのはとても素晴らしいことだと、映画という媒体そのものの良さ・大切さを感じることができる作品でもあります。

レバノンの首都の日常を見てみたい方、アラブ人女性の悩みに共感できるかどうか試してみたい方にオススメの一本です。

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ベイルート

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