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ノスタルジア

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イタリア

ノスタルジア

 

Nostalghia

監督:アンドレイ・タルコフスキー
出演:オレーグ・ヤンコフスキーほか
日本公開:1984年

2019.1.16

ロシアの巨匠が遺した「巡礼者の魂」

ロシアの詩人アンドレイは、通訳のエウジェニアを連れてモスクワからイタリア・トスカーナ地方の田園にやって来る。アンドレイはある人物の足跡を追っていた。18世紀にイタリアを放浪し、ロシアに帰れば奴隷になると知りながら帰国し自殺した、音楽家のパヴェル・サスノフスキーだ。ある日シエナの湯治場で、アンドレイは「世界の終末が迫っている」という理由で家族を7年間閉じこめて周囲から狂人扱いされているドメニコという男に出会う。ドメニコはアンドレイに「ロウソクの火を消さずに広場を渡る」という、自分が成し得なかった願いを託す。ドメニコは、それが「世界の救済」に結びつくとアンドレイに話す・・・。

本作には「巡礼」という言葉がよく合います。主人公のアンドレイも詩人ゆかり場所を巡礼していますし、聖なる場所(現在進行系の場所と、かつてそうであった廃墟)が多く登場しますし、見終わった後に映画のロケ地を訪問したくなるということも含めて、「巡礼」です。

旅に行きたいと思い立った時、もう一歩踏み込んで「なぜそこに行きたいのか」と考えると、思いがけない記憶・経験・考えにたどり着くことがあります。仮に「パンフレットのきれいな写真を見たから」という場合でも、なぜきれいと思ったのか。そこには理由があっておかしくないはずです。

私は最近、舟屋群で有名な京都の伊根に仕事で訪れた時に、かつて行われていた鯨の追い込み漁の歴史を聞きました。太鼓・鐘の音や、舟底を叩いて鯨を追い込む音が、昔鯨が伊根湾に入ると村中に響き渡っていたと聞いたその瞬間に、「今はもう見られないその光景を見てみたい」と思いました。そして、なぜそう思ったのか考えてみると、自分の生い立ちにまで、思い出を掘り返すことになりました。

本作のハイライトとなる場所は、どの場所も「巡礼地」としてふさわしい歴史と風土の上に成り立っています。主人公の心象風景として描かれる、廃墟となったサン・ガルガノ大聖院。古代ローマ時代から続く神秘的な湯治場、バーニョ・ヴィニョーニ。これらはフィレンツェ、シエナ、ピサなど観光地も多いトスカーナにあります。そして、ローマ七丘で最も高い場所に位置し、ミケランジェロが設計・着工したカンピドリオ広場。

黒澤明と親交もあったロシア(ソ連)の巨匠アンドレイ・タルコフスキーは、本作が完成した翌年に亡命を宣言し、母国には帰らないまま亡くなりました。そうしたタルコフスキーの人生という「旅」とも重なる、本作の美しい映像は必見です。