アクト・オブ・キリング

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インドネシア

アクト・オブ・キリング

 

The Act of Killing

監督: ジョシュア・オッペンハイマー
出演:ハーマン・コト、 モハマッド・ユスフ・カラ、 ハジ・アニフ、 ハジ・マーズキ、 ラマット・シャーほか
日本公開:2014年

2016.9.14

虐殺の実行者が虐殺を再現する
前代未聞のドキュメンタリー

1965年に9月30日事件と呼ばれる虐殺がインドネシアで起きました。スカルノ政権に対する軍事クーデターが勃発し、その最中で大勢の共産主義者が殺され100万人を超える犠牲者が出たと言われています。監督のジョシュア・オッペンハイマーは、はじめ生存者たちの話を聞くドキュメンタリーを製作しようとしていましたが、軍の妨害によって中断せざるをえなくなった時に発想を転換してあるアイデアを思いつきました。

それは、実際に虐殺を行ったギャングたちに、自分たちが行った虐殺を再現して演じてもらうという大胆で勇敢なアイデアです。9月30日事件の実行者である軍の人々は、虐殺を行った後も権力を利用して国民的英雄として何不自由ない裕福な暮らしてきました。彼らに虐殺を演じてもらうことを通じて、9月30日事件の真実に手を伸ばそうというのが監督の意図です。

フィクション・ドキュメンタリーに関わらず、他のどの映画にもないこの映画の力強さは、どこまで演出がなされているのか錯乱して段々わからなくなってくる、うねるような独特な物語のリズムにあります。

基本的にこの映画はドキュメンタリーなので、目の前で起こっていることをありのままに映し出すことを一番の目的にしているかと思います。しかし「ギャングたちに過去を演じてもらう」というしかけをしている以上は、監督の演出が少なからず入っているはずです。過去を誇りに思っているギャングたちが、嬉々として自分が過去に行ったことを語る様子が映しだされますが、段々とどこまでがありのままで、どこまでが演技(アクト)なのかわからなくなってきます。そうした鑑賞者の戸惑いは、出演者のギャングたちの心に直結しています。段々とギャングたち自身も、過去に自分がどれだけとんでもないことをしでかしたのか、自覚して混乱してくるという奇跡的な映像が収録されています。

旅先では、虐殺の地に訪れることもあるかと思います。私もアウシュヴィッツに訪れた時には、誰がどのように間違ったらこんな悲劇が起きてしまうのかと考えこんでしまいました。「悪」とは何か、「狂気」とは何か…『アクト・オブ・キリング』はそうしたことをつきつめて考えてみる大きなきっかけとなる映画です。